この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
新解釈 紺屋の女房
第3章 久蔵と花魁の出会い
「好かねえことを…
あちきの中にだしてよろしんすものを…」
中だしを拒んだことで
お鈴はちょっぴり拗(す)ねたようだった。
気まずい空気が二人の間に流れたが
そんな空気を掻き乱すように
茶屋の外が賑やかになった。
何事かと窓を開けると、
一際艶やかな着物を着た女が
何人もの男女を引き連れて練り歩いていた。
「花魁道中(おいらんどうちゅう)にありんす」
お鈴が同じように窓から顔を出して教えてくれた。
「花魁道中?」
「そうでござりんす…あちきら遊女の中でも
ああして花魁になれるのはほんの一握り…」
これが花魁かあ…
確かに大層なべっぺんさんだ。
出来ることならあのようなおなごと
肌を交わしたいものだとお鈴に言うと。
「主さま、失礼な言い方でありんすが…
懐(ふところ)は肥えてござりんすか?
花魁を逢い引き茶屋に呼ぶだけでも
大層なぜぜこ(お金)が必要でありんす」
して、その金額とは?
久蔵はお鈴に問いただした。
「そうでありんすなあ…
あのお方は高尾太夫(たかおたゆう)と申しまして
最高位の花魁でありんすから…
少なくとも10両かと…」
10両!?
店主見習いとして
そこそこの給金を頂くことが出来るようになった久蔵であったが、それでも10両を貯めるのに3年はかかる…
「高嶺の花とはまさにこの事よな」
久蔵はガックリと肩を落とした。
「同じように花街に売られたおなごでも
花魁として花を咲かすおなごもおれば
わちきのようにたまに主(ぬし)さまに買われ
日銭を稼ぐのが精一杯で
ようやくおまんまにありつけるおなごもおりんす」
己の運命(さだめ)の儚(はかな)さを呪うかのように
お鈴ははらはらと白粉(おしろい)を洗うかのように
いくつもの涙の粒を落とした。