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新解釈 紺屋の女房
第5章 高尾太夫との合瀬

そんな騒ぎを聞き付けたのは
顔見せの部屋で今宵も客からあぶれたお鈴であった。
「あいや、あの主(ぬし)さまはいつぞやの…」
三年も前だというのに、情を頂戴した久蔵のことを
お鈴はしっかりと覚えていた。
「一体どうしたといわすのでありんすか」
穢多役人(えたやくにん=遊郭の岡っ引き)に
摘まみ出されようとしているところへお鈴が声をかけた。
「いえね、高尾太夫に会わせろと動こうとしないもんだから
遊郭の外へ摘まみ出すところでございます」
久蔵は穢多役人に殴られても蹴られても
その場を動こうとはせず
手にした10両を掲げていた。
太夫に会うには最低でも10両が必要だと言ったのを
この男は覚えていた!
どんなに必死のおもいで10両を貯めたのかと思うと
胸が熱くなった。
「僅かだけ時間をくんなまし」
遊女よりも位(くらい)の低い穢多役人であるがゆえ
遊女からしばらく待っておけと言われれば
言うことを聞かねばならなかった。
「ほんの僅かな時間でよければ」
穢多役人はつまらなさそうにそう言った。

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