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新解釈 紺屋の女房
第5章 高尾太夫との合瀬
「ほんとかえ?ほんに嫁に来てくれるんかね?」
悔し涙が枯れ、今度は喜びの涙が溢れた。
身請けしないという太夫の言葉にお鈴が異義を唱えた。
「太夫、お言葉でありんすが、
このような主さまのところへ嫁がなくても、
どこぞの御大尽のところへ身請けした方が
花魁のためでありんす…」
確かに金持ちの家に身請けされた方が
裕福に暮らせるであろう。
ただ、身請けといういうのは、
この遊郭から御大尽の屋敷に買われてゆくという
人身売買なのだ。
身請けされたとて正妻にはなれず、
御大尽の屋敷で飼い殺され
男の性処理の玩具になるだけなのだ。
「お鈴…、あちきは裕福な暮らしよりも
女の幸せが欲しいでありんす」
女の幸せ…
お鈴はそんなことを考えた事がなかった。
此処に売られてきて女盛りの時期は男に買われて
身請けされて、どこかの御大尽の屋敷で
籠の中の鳥として死んでいくか、
どこにも行く宛もなくこの遊郭に女中として残り
掃除洗濯に明け暮れるかの二者択一だと思っていた。
慕われている男のもとへ嫁ぐという選択肢など
売られてきたときから無いものだと思っていた。
太夫は、嫁となるその道を選ぼうとしている。
羨ましかった。
醜女(しこめ=ブス)の自分には
縁のない道だと己の容姿を呪った。