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新解釈 紺屋の女房
第5章 高尾太夫との合瀬
「おゆかり様(馴染み客)になるまで
あちきをこうしてお呼びしてくんなんし
お主さまが、あちきにとって
間夫(まぶ=本命の男)になるまで通いなんし」
久蔵が遊郭に不慣れとわかったからか
太夫の言葉に優しさが込められた。
「通えと?俺がお前さんに会うために3年もかかったんだ!
次にまた会うために、再び3年間も身を粉にして働けと?」
遊郭のルールだか何だか知らないけれど
あまりの理不尽さに久蔵は涙をポロポロこぼして泣いた。
「その間にあなたが誰かに見受けされれば一巻の終わり…
今宵一度の逢瀬でございましたが、
これにて今生(こんじょう)のお別れにございます」
久蔵は自分の事を全て話した。
此処へ遊びに来る御大尽(金持ち)に有らず
一介の丁稚奉公人であること、
太夫に一目惚れして
必死にお金を貯めてようやく会いに来たのだと、
涙を溢れさせて語った。
「御大尽に有らずことは気づいておりんした。
主さまの指は染め粉が染み付いてありんす
あちきは盗っ人でもして大金を手に入れ
ここに遊びに来たと思っておりんした」
一目見ただけで太夫に思いを寄せ
一心不乱に働いてきた久蔵を思って太夫も涙を流してくれた。
「お金で枕を交わす卑しい身を
3年も思い詰めていただけるとはなんと情の深いお方…」
太夫はどこにも見受けしませんと言い出した。
「あちきは後2年で年季明けとなりんす
年季が明けたらお主さまの元に嫁ぎに参りんしょう
心変わりせず待っていてくんなまし…」
その言葉を聞いて久蔵は喜び、お鈴は驚いた。