この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
新解釈 紺屋の女房
第6章 花魁の嫁入り

月日は流れ、高尾太夫の年季が明ける日が来た。
久蔵は高尾太夫がやってくるのを
今か今かと待ちわびた。
「可哀想に…
野暮(田舎者)だから上手くあしらわれただけさ」
吉兵衛はおそらく訪ねてこないであろうと思い、
しょげかえる久蔵をどうやって慰めようかと思案した。
お玉もまた、高尾太夫が来なければ自分の出番だと
久蔵に抱かれてやろうと心を決めていた。
やがて日が暮れ、
店を閉めて夕餉(ゆうげ=夕食)を済ました頃、
カランコロンと下駄の音が紺屋に近づいて来た。
「太夫だ!」
久蔵は悦び勇んでソワソワし始めた。
「日が暮れてから嫁いでくる馬鹿はいねえよ。
どこぞの女中が用事を言いつけられて
歩いているだけさ」
吉兵衛はこの期に及んでも
花魁が嫁に来るなんざ信じていなかった。
お玉も今夜のために裏の井戸端で
せっせと股を洗っていた。
やがて木戸をとんとんと叩く音がして
「ごめんなんし、夜分にごめんなんし」と
なんとも、耳に心地よい声がした。
その声を聞いて「太夫が来た!」と
木戸を開けに久蔵は走り、
まさかとは思いながら吉兵衛はちゃぶ台を片付け、
お玉は慌てて股を手拭いで拭いた。

