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第8章 『飼い主』

翌朝、気分は最悪であったが奈緒は自らを奮い立たせ出勤した。
いつもと変わらない自分を保ち、いつもと同じように業務をこなした。
退勤時間、奈緒は当然のように帰路についた。
行き先はもちろん自分の部屋であって大学の研究室ではない。
綾宮の思いつきのようなメールでのこのこと赴いたりはしない。
私はもう、あの頃の子供ではないんだ。
奈緒は自分に言い聞かせるように帰った。
動揺していない振りをしていたがスポーツクラブにも寄らずに帰宅したのはやはり彼女が動揺していることの象徴だった。

昨晩からメールを返していない智輝に言い訳をしながらメールを返信する。
じっとしていると時計ばかり気にしてしまう為、思い切り手の込んだ料理に挑戦することにした。
冷蔵庫に牛肉があった為、ビーフシチューを作ることに決めた。
牛肉の表面に焦げ目をつけ、たまねぎ、ニンジンと共に圧力鍋に入れる。
セロリやローリエはない為に割愛する。
しばらく蓋を開けて煮込んでから圧力をかける。
しゅんしゅんと音を立てている間にジャガイモやマッシュルームを大きめに切り具材の用意をする。
十分ほど圧力をかけた後に蓋を開け、灰汁を取ってから切った具材を入れてから野菜ジュース、コンソメ、塩、コショウなどを加えて煮込んだ。
ぐつぐつと音を立てる鍋からは酸味の効いた薫りが立ち上る。
おたまで鍋を掻き混ぜていると意識は再び学生時代に戻りそうになり、慌てて頭を振って料理に専念した。