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縛られたい
第14章 ささやかな誤解、そして別れ〜まりあ
ゴールデンウィークや入籍記念日も過ぎて、
梅雨空が続くようになった頃に、
元夫の弁護士から連絡があった。


元夫の住所として知らされたのは、
母や優子さんがお世話になっていたホスピスだった。


「あの…ここは…?」と訊くと、
「詳しくはご本人から伺ってください」と言われた。



水曜日は阿部さんのお母様が毎週家に来てくださるので、
賢人の世話をお願いして、
車でホスピスに向かってみた。

阿部さんも水曜日は、
お父様の大学で、
一コマ授業を持つようになっていたので、
特に話はしないで出掛けた。


元夫は、痩せて枯れ枝のようになっていた。
覇気もなく、しかし、とても穏やかな顔つきだった。


「あの…どうして?」

そっと目を開けて私の方を見ると、
「ああ。
まりあちゃん、来てくれたんだね?
ありがとう」とゆっくり言った。


「言ったでしょう?
自業自得。
バチが当たったんだよ」と言って、
乾いた笑いをするけど、
声もあまり出ないほどだった。


「子種どころか、
生命ももう、無くなる処だったから、
本当に運命の再開だと思ったけど、
そんなことはなかった。
まりあちゃんのお母様の見舞いにも葬式にも行かなかったバチが当たって、
こうやって誰一人として見舞いにも来ない状況で、
独りで死んで行くんだよ。
だから、死ぬ前に、
まりあちゃんに会えて良かった。
本当に来てくれて、ありがとう」と言いながらも、
呼吸が乱れて苦しそうだった。


「あの…。
看護士さん、呼びますか?
お薬を…」


「いや、大丈夫。
手を握って貰えるかな?
あ、嫌だったら良いよ」


私はそっと、
枯れ枝のような手を握る。
冷たくて細くて、
哀しくなってしまう。


「まりあちゃんの手は、
柔らかくて温かいね。
本当に、酷いことばかりして、
ごめん」と言いながら、
力が抜けていくようになる。


「ナースコールしますね?」と言って、
ボタンを押すと、
直ぐに看護士さんが来てくれて、
点滴に薬剤を入れる。


そっと目を開くのを見ながら、
「また、来週、来ますね?
薔薇の花束、いつもありがとうございます」と耳元で言うと、
私の手を少しだけ力を込めて握り返してくれた。
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