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縛られたい
第14章 ささやかな誤解、そして別れ〜まりあ
次の週から、
月曜日に届いた花束から一輪だけ薔薇を持って、
水曜日にホスピスに行くようになった。


たまたまなのか、
母や優子さんをご担当されてたスタッフさんと会うこともなかった。


行ってもただ、眠っている日もあるし、
車椅子に乗って中庭に行くことも出来ないほど弱っているのは、
素人目にも判った。


髪を梳かしてあげたり、
おっかなびっくり、髭を剃ってあげる日もあった。


ホスピスの人は、娘か姪だと思っているようだった。




夏休み期間に入ると、
阿部さんや子供たちの手前、
水曜日の外出が難しくなってきたけど、
買い物に行くフリをしながら、
ホスピス通いを続けていた。


「俺が運転しようか?」と言われても、
「大丈夫です」と言って、
自分用のミニクーパーで出掛けていたけど、
阿部さんが少し疑っているなんて、
思いもよらなかった。


お母様が、
「毎週、同じ時間に出掛けて、
2、3時間くらいで戻ってくるのよね」と話していたのが、
気になっていたみたいだった。




「今日は、何処に行ってたの?」とベッドの中で訊かれて、
「ん。
考え事したくて、
静かな処に行ってたの。
昼間、賑やかなんですもの。
何か、不都合なこととか、あったの?」


「いや、別に」




そんな会話の後、
いつものように愛し合ったけど、
なんとなくいつもより少しだけ苛立っていて乱暴な気がしてしまう。


「まさとさん…?
どうしたの?」と言っても、
ちゃんと答えてくれなくて、
少し不安になってしまう。


でも、終わった後はいつもの阿部さんで、
腕枕をしながら優しく髪を撫でて、
私が眠りにつくまでそっと抱き締めてくれる。



穏やかで安心した気持ちで、
深い眠りについたけど、
次の週は少しだけ波が立つような日になってしまった。
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