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縛られたい
第14章 ささやかな誤解、そして別れ〜まりあ
水曜日にいつものようにミニクーパーでホスピスに向かう。

受付で名前を書いていると、
後ろから名前を呼ばれてしまう。

ゆっくりと振り返ると、
阿部さんが立っていた。


「えっ?
どうして?」と言うと、

「なんか、まりあさんの様子がおかしかったし、
ちゃんと話をしてくれないから不安で…。
悪いけどつけてきた」と言う。

阿部さんはちょっと泣きそうな顔をしていて、
私は申し訳なさで一杯になってしまう。


「中庭に行きましょうか?」と言って外に出る。
日陰を探してベンチに座るけど、
外はとても暑くて、
たちまち阿部さんは汗だくになるので、
「大変!
やっぱり室内の涼しい処が良いかな?」と言って、
手を引いてドリンクコーナーがあるスペースに入った。



「内緒にしていた訳じゃないけど、
話にくくて…。
ううん。
内緒にしてたのよね?
ごめんなさい」

「どういうこと?
誰が居るの?」

「あの…。
元夫です」

「えっ?」

「送られてくるお花が気になって、
元夫の家に行ってみたら、
更地になってたの。
それで、もっと気になっちゃって、
弁護士さんに訊いてみたの。
そしたら、ここに居るって言われて…」

「それで?」

「もう、枯れ木みたいで、
殆ど話も出来ないけど、
謝りたかったって。
独りで死んでいくのは自業自得だって言うのが、
私…可哀想で…」

「酷いこと、されたんでしょう?」

「過去のことだから。
苦しんで独りぼっちで死ぬのはあまりにも可哀想で…」と言いながら、
私は泣いてしまっていた。


見ると阿部さんも泣いている。


「だったら内緒にしないで?
俺、浮気でもされてると思って、
腹を括って今日はつけてきたんだよ。
あー。
なんて女々しいんだろう。
カッコ悪いな」
と言う。


「そんなこと…。
私が黙ってたから。
心配掛けて、ごめんなさい」としがみついて泣いていると、
通り掛かった看護士さんが、
「あ…。
今、目を覚まされてますよ。
でも、そろそろ危ないかもって先生、言ってました」と言う。


「俺も一緒に行っても良いかな?」と言うので、
手を繋いで二人で病室に入ると、
元夫は静かに横たわっていた。
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