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縛られたい
第6章 雪解けの気配〜まりあ
私はカップを置いてから姿勢を正して、静かに話を始めた。

「あの…深夜に…
阿部さんの奥様の優子さんが亡くなりました。
細かいご事情は存じ上げませんが、
結婚後、阿部さんのご両親様と全くお会いしていなかったことは伺いました。
優子さんから伝言を預かっておりますので、
お読みいただけませんか?」と言って、
白い封筒を出して渡した。


お父様が手を伸ばして、
立ち上がったお母様が部屋の片隅にある飾り机からペーパーナイフを取って手渡した。

封を開けて、中を2人で観ていると、
2人の目から涙が溢れてきた。


静かな沈黙。
窓の外から鳥の声がする。


お父様が便箋を私にそっと渡す。


「えっ?」


「読んでください」


母の手帳のように、
力がこもらないような筆跡で、
数行、書かれていた。


『私の死に免じて
まさとさんをお許しください
子供たちと会ってあげてください

勝手な結婚をして
申し訳ありませんでした』



「あの…」

「ああ、個人的なものをお見せして、
訳が判らないですよね?
失礼しました。
息子はまだ学生だというのに、
勝手に優子さんと結婚しました。
デキ婚というヤツで、
どうしても許せなくて勘当したんですよ。
おまえはこっそり、
あいつと会っていたのか?」

「いいえ。
ただ、時々優子さんが手紙をくださってましたよ。
孫たちの写真と一緒に。
でもここ2年ほどは来なくなっていて、
気にはなってました」


「渡辺さんと言ったかな?
息子の処の仕事は長いのかな?」

「いいえ。
ついこの間…3月1日からお世話になっています。
その前には、4週間ほど、
パソコンスクールで時々ご一緒してました」

「そうでしたか。
それなのに、こんな家族間のことに巻き込んでしまって…」


「それは構いません。
本当に偶然だったんですけど、
私の母も優子さんと同じホスピスに居て、
優子さんにたくさんお話を聴いて頂いてたことが、
本当に最近になって判ったんです。
お陰で母は、
とても平穏な気持ちで旅立てたと感謝し…て…」
私も泣いてしまって、言葉が続かなかった。


阿部さんのお母様が、
背中を軽く叩いてくれる。


「だから私も、
少しでも優子さんとお話をしたくてホスピスに伺うようにしましたけど、
本当に少ししか…」

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