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彼女に抱かれたい
第20章 船出の時
卒業式の会場へと入り、式が始まったが、さすがに人が多くて彼がどこにいるのかは分からなかった。

偉い人たちの挨拶などがあり、少し退屈な時間が流れていた。
「答辞、………田中サトシ。」
『ハイッ!!』



サトシくん!?
え!?ちょ…あんないっぱいいる人の中の総代ってこと??

彼は眼前に答辞の冊子を広げ、堂々と力強い言葉で答辞を述べた。

『私たちは本日、卒業し、現場へと飛び立つ船出の時を迎えました。』

こんなにいっぱい人がいる中で首席ってこと?
すごすぎて、思考が追いつかない。

『卒業生総代、田中サトシ!!』

答辞の内容が全然頭に入らなかった。

すごいとしか言いようがない。


厳かな雰囲気の中で卒業式が終わり、彼らはその足でそれぞれの赴任地に向かう。
一緒に帰ることはできないらしい。

やっぱり厳しい世界だ。
見送りに後輩の人たちも並んでいる。

その輪の中に、サトシくんが歩いてきた。

「田中さん!」
「先輩!」
いろんな人に声をかけられ、にこやかに返事を返している。
いろんな人に慕われているんだね。
いつも明るくて真っ直ぐな彼の周りには、自然と人が引き寄せられるのだろう。

私にはもったいないくらい。ホントかっこいい。


輪の中を歩き、祝福を受けている彼と目が合った。


彼は突如歩みを止めて真顔になると、大粒の涙をこぼした。
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