この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ノーサイドなんて知らない
第10章 幸せな時間
更に3年ほど経った。
健(たける)さんはアメリカンスクールを経て、
アメリカに旅立つことになり、
渉(わたる)さんもイギリスに旅立つことになった。
2人とも「イギリス訛りの綺麗な英語を話す」と言われているようで、
それは多分、私の影響もあるのかもしれなかった。
大きい男の子が2人居なくなると、
家が途端に静かで広く感じでしまう。
優(まさる)さんは、
身体は大きいといってもまだ6歳。
おっとり優しい処は小さい時から変わらない。
時々、淋しい気持ちになるけど、
それを察するように、
「ママ、僕はずっとママと居るからね?
日本でもお医者さんになれるでしょ?」と手をギュッと握り締めてくれる。
熊野さんは出会った頃と変わらず、
私を物凄く甘やかしてくれていて、
なんとなく新婚時代に戻ったようだった。
日曜日には公園にお弁当を持って出掛ける。
楕円形のボールで、
熊野さんと優(まさる)さんがキャッチボールをするのを見ながら、
編み物をする。
そして、時差を考えながらパソコンを繋いで、
遠く離れた家族であれこれお喋りをして過ごすような長閑な毎日。
夜はたくさん熊野さんに愛して貰って、
丸まって眠る。
相変わらず顔は覚えられないけど、
空気のように自然に、
そこに居ることを認識出来る。
本当にいつか、
この病気が治る方法を、
3人の子供達が見つけてくれるような気がする。
でも…。
顔を覚えられなくても、
それ以上の絆があるから、
何も問題ないと思えた。
私も翻訳や通訳だけでなく、
相貌失認についての書籍を書いたり、
講演を頼まれるようになっていた。
「どうした?
茉莉(めあり)?
ぼんやりしてる」と、
ボールを手に戻って来た熊野さんに、
タオルと飲み物を渡す。
「ううん。
幸せだなと思って…」と笑うと、
「俺が一番幸せなの!」と言って、
私の額にキスをする。
「えー?
違うよ。
僕が一番幸せなんだよ?」と言いながら、
優(まさる)さんが小さな手を伸ばして私を抱き締めてキスをする。
遠くにいる健(たける)さんと渉(わたる)さんの分もと、
たっぷりキスを返しながら、
もう一度、ジェントルマンの熊野さんに、
キスをして貰った。
(完)
健(たける)さんはアメリカンスクールを経て、
アメリカに旅立つことになり、
渉(わたる)さんもイギリスに旅立つことになった。
2人とも「イギリス訛りの綺麗な英語を話す」と言われているようで、
それは多分、私の影響もあるのかもしれなかった。
大きい男の子が2人居なくなると、
家が途端に静かで広く感じでしまう。
優(まさる)さんは、
身体は大きいといってもまだ6歳。
おっとり優しい処は小さい時から変わらない。
時々、淋しい気持ちになるけど、
それを察するように、
「ママ、僕はずっとママと居るからね?
日本でもお医者さんになれるでしょ?」と手をギュッと握り締めてくれる。
熊野さんは出会った頃と変わらず、
私を物凄く甘やかしてくれていて、
なんとなく新婚時代に戻ったようだった。
日曜日には公園にお弁当を持って出掛ける。
楕円形のボールで、
熊野さんと優(まさる)さんがキャッチボールをするのを見ながら、
編み物をする。
そして、時差を考えながらパソコンを繋いで、
遠く離れた家族であれこれお喋りをして過ごすような長閑な毎日。
夜はたくさん熊野さんに愛して貰って、
丸まって眠る。
相変わらず顔は覚えられないけど、
空気のように自然に、
そこに居ることを認識出来る。
本当にいつか、
この病気が治る方法を、
3人の子供達が見つけてくれるような気がする。
でも…。
顔を覚えられなくても、
それ以上の絆があるから、
何も問題ないと思えた。
私も翻訳や通訳だけでなく、
相貌失認についての書籍を書いたり、
講演を頼まれるようになっていた。
「どうした?
茉莉(めあり)?
ぼんやりしてる」と、
ボールを手に戻って来た熊野さんに、
タオルと飲み物を渡す。
「ううん。
幸せだなと思って…」と笑うと、
「俺が一番幸せなの!」と言って、
私の額にキスをする。
「えー?
違うよ。
僕が一番幸せなんだよ?」と言いながら、
優(まさる)さんが小さな手を伸ばして私を抱き締めてキスをする。
遠くにいる健(たける)さんと渉(わたる)さんの分もと、
たっぷりキスを返しながら、
もう一度、ジェントルマンの熊野さんに、
キスをして貰った。
(完)