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ノーサイドなんて知らない
第10章 幸せな時間
イギリスからフランスに移動して、
南フランスの田舎にあるひいおばあちゃんの館で過ごすのが、
私にとっては一番癒されるような気がする。

あと何年、一緒に過ごせるかなと思うこともあるけど、
少しでも訪問したいと毎回思っていた。


渉(わたる)さんは、私の馬にも乗れるようになっていた。
優(まさる)さんは、私と一緒に馬に乗ったり、
小さいポニーに跨って私がゆっくり引いてあげたりした。


のんびり大きな台所で料理をしたり、
サロンで針仕事をしたり、
ピアノを弾いて過ごしたりした。


帰る時はいつも淋しくて、
子供のようにひいおばあちゃんにしがみついて泣いてしまうと、
いつも優しく笑って、
「また会えますよ」と髪を撫でてくれた。


渉(わたる)さんも、
「ママ、また来れば良いでしょ?」と大人びたことを言いながら、
私の手をギュッと握ってくれた。




パリに戻って飛行機で帰路につくと、
成田まで熊野さんが迎えに来てくれる。


「パパ、僕ね、
馬に乗ったよ」と優(まさる)さんが言うと、

「あれは、ポニーでしょ?」と渉(わたる)さんに言われて、
泣きながら、
「違うもん。
ママと一緒に馬にも乗ったもん」と言うので、
「そうね?
ママと大きな馬に乗れたわね?」と、
そっと頭を撫でてあげる。


「今度はね、独りで乗れるよ?」と言うので、
「あら?
ママも一緒に乗りたいのに?」と笑うと、
「ん。
じゃあ、一緒に乗せてあげるね?」と満足そうに言った。


帰宅すると、
「俺、じゃなくて、僕、
イギリスに留学しても良い?」と、
熊野さんに言うので、
熊野さんは目を丸くしてしまう。


「あっちで、グランパは良いよって言ってたよ?」


「イギリスは…。
英語がもっと厳しいと思うよ?」


「うん。だから、俺…じゃなくて、
僕、勉強するよ?」


「なんで、僕なの?」と熊野さんが笑うと、

「だって、ジェントルマンじゃないとダメなんでしょ?」と、
すました顔で言うので、
みんなで笑ってしまった。


夏休みの終わりギリギリになって、
健(たける)さんも帰国した。


独りで成田から戻って来たので、
びっくりしてしまった。


「だって、それくらい出来ないとね?」と笑う健(たける)さんは、
なんだかとても大人っぽくなっていた。
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