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第1章 　当主　陽一　～　青山家の秘密

　しばらくスピーカーからサーという微かなノイズだけが漂っていたが、ふと陽一は我に帰ったかのようにグラスに手を伸ばし、その視線の先にハウスメイドを見た。

「ああ涼子さん、有り難う。少し考え事をしていたのでね。この一杯をいただいて休むことにするから。」

「はいご主人様。今日は早朝にシンガポールから帰国されて、そのまま会社の方にいらしたんですね。お疲れ様でした。ご出張中は何かとご不自由されたかと存じまして、この後、寝室でのご奉仕には、若い有香さんの方がよろしいかと、仕度させておりますが。」

　陽一は少し困った表情をしてから、静かに、しかし強い意志を感じる口調で言った。　「ちょっと考えていることがあってね。涼子さん、今夜はあなたとゆっくりお話しをしたいので、僕の傍にいて添い寝をしてくれませんか。」

　涼子は背筋を伸ばし、膝前に指を突いて　「かしこまりました。それでは自室で仕度をして後ほど参ります。」　と落ち着いた口調で応じたが、陽一は重ねて言った。　「いや、一度戻らなくてもこのままご一緒しましょう。今日は暑い一日だったから、さっとシャワーを浴びて、寝室でくつろぎませんか。」