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私じゃなくても
第2章 溢れる涙
side 早瀬
それからしばらく
俺とワンちゃんは
黙ったままやった。
それは
ワンちゃんが
泣いてしまったからや。
俺の問いに
首を横に振ったワンちゃんの目は
あっという間に涙でいっぱいになり
そして
溢れた涙で頬を濡らしたんや。
知ってたで
さっきから涙ぐんでたん。
せやから
お節介言うてしもたんや。
理由は
わからへん。
なんでワンちゃんのことを
助けたなるんか
俺にもわからへん。
けど…
ほっとかれへんかったんや。
「ごめんなさい…」
「えぇねん。
ほんま
気にせんでええから」
しんどいねんな。
慣れへんこと
一人でやってほんま大変なんやろう。
ガチ泣きし始めてしまった
ワンちゃんの背中でも
さすってあげたいけど
千華ちゃん抱いてて
両手塞がってて
悔しいけど
なんもでけへん俺は
なんや…もどかしくてたまらんかった。
「ダメですよね…
こんなことで
泣いちゃうなんて…。
みんな
やってることなのに」
前も言うてたな…
世の中のママはみんなやってる言うて。
けどそんなん関係あるんやろうか。
しんどいことに変わりはないし
泣きたい気持ちも
ほんまやねんから。
「そうかも知れへんけど
辛い時は泣いたらええんちゃう?
しんどかったら
頼ってええんちゃう?」
「……」
「子育てのこと
なんも知らん俺が
言うのもアレなんやけど」
「…ううん……
ありがとう、ございます」
少し落ち着いたのか
ワンちゃんは
自分で自分の涙を拭い
そして
眠ってる千華ちゃんの
髪を優しく撫でた。
「可愛らしいな」
「はい。
可愛くて仕方ないです。
それなのに
やっぱり…大変で…」
「せやな」
「ごめんなさい。
早瀬さんには
弱いとこばっかり…」
「ええんや。
姉貴なんか
無茶苦茶弱音吐いてたで?
こんなの無理ーとか
なんで泣いてんのかわからへん!
とか」
「……」
「姉貴は母親に言うてたけど
愚痴を言う相手おらんかったら
いつでも聞くで?」
それは
ほんまの気持ちやった。
愚痴を聞くだけでもええ。
ワンちゃんと
少しでも接点を持っていたい。
そう
素直に思うたんや。