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桜が咲く頃逢えたら
第13章 桜が咲く頃逢えたら
駐車場へと歩いていると、
住職様とバッタリお会いした。


「おや…宇田川さんのところの…?」と声を掛けられた。

「はい。
りんくんの葬儀などでお会いしました。
法要と納棺の時も…。
先程、お声を掛けてみましたが、
お忙しそうなご様子でしたので…」と言うと、

「お茶でもいかがですか?」と言われた。


安西くんの方を見上げると、
静かに頷いてくれたので、
住職様についていくことにした。


通されたお部屋は、
りんくんの納骨の後、
亮平さんと通されて、
抱かれた応接室のような処で、
私は少し戸惑ってしまった。

手土産にと用意した虎屋の羊羹をお渡しすると、
住職様が自ら、
お茶の準備をしたお盆を運んでくださるので、
「私が…」と言ってソファから立って、
床に座ってお煎茶を淹れた。


「淹れ方がお上手ですな。
同じ茶葉なのに…」と穏やかな顔で言われる。


「そちらは?」と訊かれたので、
「主人です。
今月の初めに結婚しました」と答えた。


「お若いご夫婦ですな」と言われて、
顔を見合わせてしまう。


「亮平さんとお会い出来なくなって…
お仕事で忙しいと言われていたら、
お身体を悪くされてるのも知らずにいて、
妊娠もしていたんです。
彼は、どのタイミングだったか判らないのですが、
亮平さんのことも知った上で、
自分が父親になるって言ってくれてたんです」


住職様は優しい顔で話を黙って聴いてくれていた。


「亮平さんがもう、最期だと言う時、
病院に連れて行かれましたが、
私、それを認めたくなくて、
動転したこともあって、階段から落ちてしまって、
赤ちゃんもダメだったし、亮平さんのことを看取ることも出来なかったし、
その後もずっと抜け殻みたいになってて、
歩くことも出来なかったんです」


「おやおや。
大変でしたな」という住職様にと、
二煎目のお茶を淹れる。


「昏睡していた時期に、
彼は私の両親に、
子供の父親は自分だって言ってくれて、
多分、両親にも酷いことを言われたと思うのに、
ずっと私に寄り添ってくれました。
それで…、結婚することにして…」と言うと、
涙が溢れてしまう。


「宇田川さんも安心されてると思いますよ。
りんくんもね。
どうか幸せな結婚生活を送ってください」と言いながら、
亮平さんのお母様から託されていたという小さい箱を渡された。
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