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桜が咲く頃逢えたら
第3章 初めての夜
タクシー2台で、亮平さんのマンションに向かうのは、
年末の時と同じ。

違うのは、
亮平さんと私が後部座席に座って、
助手席に江川さんが座ったところ。

車内で亮平さんは、
ずっと私の手をギュッと握ってくれていた。




亮平さんのマンションは、
更に荷物が無くなっていて、
本当に殆ど家具もなくて驚いてしまった。

リビングにあったソファやテーブルなんかの家具も、
キッチンの備え付けの棚にあった食器も、
何もかも無くなっていた。

その代わりに小さなアプリコット色のトイプードルが、
ゲージの中で鳴いていた。



「わっ!
可愛い!!名前は?」と訊くと、
「タロウだよ」と真面目な顔で亮平さんが言うのでクスクス笑ってしまう。


「どうしたんだ?」と江川さんが言うと、
「洗いざらい金目の物は持って行ったけど、
犬の面倒は見れないって連れてきて、置いて行ったよ。
流行りだからって買ったの、あいつだったのにな」と、
亮平さんは吐き捨てるように答えた。


「抱っこしても良いですか?」と訊くと、
「そいつ、馬鹿犬だから、噛むよ?」と言った。

「あら。
馬鹿な犬なんて、居ませんよ?
飼い主が馬鹿なだけです」と言って、
座ってゲージ越しに目を合わせてみる。


リビングは座りにくいからと、
みんな、和室に行ってしまったけど、
私はタロウにそっと話し掛けてみた。

案の定、訓練はされてたみたいで、
英語に反応するのが判る。


キッチンに行って、
ドッグフードやオヤツを探してみて、
小さいオヤツを見つけたので、
それを手に戻る。


「亮平さん、ゲージから出しても良いですか?」と訊くと、
「んー。
オシッコとかしちゃうよ?」と言うので、
私がゲージに入ってみる。


お座りも伏せも待ても、
ちゃんと理解して出来るのを確認して、
「good boy」と言って、その都度オヤツをあげると、
誇らしそうに尻尾を振る。

頭を撫でると、
嬉しそうに私にキスをしてくれる。

ペットシーツを新しく替えて、
水も汲み直してあげると、
美味しそうに飲んでくれる。


紘子さんとジャンボさんは、
別の部屋に入ってしまって、
そのうち、紘子さんの甘い声がしだすと、
タロウはびっくりしたように吠え始める。


「大丈夫よ?
落ち着いて?」と言って撫でてあげると、
ベッドに丸まって目を閉じた。
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