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桜が咲く頃逢えたら
第8章 逢いたい
その後も安西くんは家に来てくれる。
司法試験用の参考書とかを抱えて来て、
「一緒に受けようね?
相対評価じゃないから、
2人で勉強しても蹴落とされないし」と笑う。

時々、紘子さんも来てくれて、
「はぁ。
難しい本、読んじゃって?」と呆れ顔をされる。

紘子さんと高橋くんは、
本当に付き合い始めているみたいだった。


ある日、
「私…桜が観たいな」と言うと、
次の週に、
「休日の幼稚園の庭で、
花見をさせて貰えることになったよ」と安西くんが笑った。


ママと2人で、お重に彩りどり良く、
たくさんのお惣菜を詰め込んで、
安西くんの車で懐かしい幼稚園に向かった。


紘子さんと高橋くんも来てくれて、
4人でちんまりとお花見をしながら、
私は散っていく桜の花弁に、
りんくんの短かった人生と、
途切れてしまった私と亮平さんの関係を重ね合わせて、
静かに涙を流してしまった。



と、そこに、
会いたくて気が狂いそうだった亮平さんが静かに近づいて来るのが見えた。

幻覚かと思ってしまって、
私は動けなかった。


「瑞樹?
やっと会えた。
会いたかった」と言って、
強く抱き締めてくれる腕や、
顔中に降り注ぐ唇は、
幻ではなかった。


「どうして…?
亮平さん、ここに居るの、
本物の亮平さん?」と言いながら、
私は泣くことしか出来なかった。


「安西くん、ごめんね?
私が知らせたの」と、
紘子さんが小さい声で言ったけど、
私はもう、亮平さんのことしか見えなくて、
亮平さんの声しか聴こえなかった。




「このまま、連れて帰って?
一緒に居たいの」と言う私に、
亮平さんは少し困った顔をしていた。


「えっ?
ダメなの?
もう、私のこと、
嫌いになっちゃったの?」


私は混乱して、
小さい拳で亮平さんの胸を叩いてしまっていた。


過呼吸になったのか、
息が苦しくて、
意識が遠ざかってしまうのを、
高橋くんが何か言いながら、
私の口元に袋のようなものを当てていた。


「瑞樹ちゃん、ゆっくり息して?
そうそう。
ゆっくりだよ?」


少し落ち着いてきた感じがする。

みんなが私のことを覗き込んでいるけど、
安西くんだけが少し離れた処に居るみたいだった。
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