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Start Over Again
第1章 引っ越し
仕事から帰宅すると、母と妹の萌香がリビングで大量の段ボールに囲まれていた。
「ただいま」
声をかけると二人はいったん手を止めて「おかえり~」とこちらへ顔を向ける。
二人の足元には、すでにガムテープで封をされた段ボールがたくさん置かれている。
「とりあえず、こんなもんかな」という母に
「うん。あとは前日とかでいいね」とうなずく萌香。
終わったのかな? と思いながら母が用意してくれていた晩ご飯をいただいていると「お姉ちゃんはもう終わった?」と隣の椅子に腰をおろしながら萌香が首をかしげた。
何を聞かれているのか意味がわからなくて「ん?」と同じように首をかしげると、萌香は一瞬動きを止めて目を見開いた。
「えっ……待って。お姉ちゃん…もしかして、まだ準備してないの?」
「なに、準備って?」
白米をごくんと飲み込み、箸を止めて聞き返すと、萌香はガバッと勢いよく立ち上がり母へ顔を向ける。
「お母さん! やばい、お姉ちゃんまさかのなんにもしてない!!」
萌香の言葉に母が首をかしげた。
私は一体、何をしていないのか。
そう思いながら黙って二人を見つめていると、察しのい母がまさか…とでも言いたげな表情で私を見つめた。
「恵香(けいか)…引っ越しの準備してないの?」
「うん。だって、引っ越すのお母さんだけでしょ」
「はぁ?! なに言ってんの! けいちゃんも引っ越すんよ!!」
「……??」
私も引っ越す?
母の言葉の意味がわからなくて、脳内は?マークで溢れかえる。
「よぉーーーく思い出しなさい。半年前に内村さんと会ったあの日、内村さんが帰ったあと、もえちゃんも彼氏と同棲することになったし、けいちゃんも引っ越し先を探しなさいね? って母さん言ったよ」
「あーー……」
そう言われると、確かに言われたような気がする。
半年前…
母の恋人の内村さん……
もえちゃんの同棲宣言……
徐々に記憶が蘇っていく。
確かあの頃って仕事が忙しくて、家には寝るために帰ってくるだけって感じの時期で、そんななか無理して時間つくって内村さんと会ったから、聞いてたけどほぼ聞いてないようなもんで、適当に返事したと思われる。
つぅーと冷や汗が背中をつたっていくのを感じながら、私はそっと目を閉じた。