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Start Over Again
第1章 引っ越し
以前から、母が内村さんという男性と交際をしているという話は聞いていたが、会ったことはなかった。
母は再婚はないかな。と言っていたけれど、萌香も私もとっくに成人してるし、そういうことは母の自由にしたらいいと思っていた。
そんななか、母が五十歳を過ぎたのをきっかけに『娘さんたちに挨拶させてほしい』という内村さんの頼みを断れなかった母のためにみんなで食事をすることに。
終始、和やかな雰囲気で食事を楽しみ、そろそろお開きにしようかというときに内村さんが半年後くらいを目処に母と暮らしたいと考えている旨を話してくれたのだ。
萌香も私も間髪入れずに賛成。
母から聞いていた内村さんは穏やかで優しい人で、実際に会ってみても母に聞いたとおりの人だったから、反対する理由がなかったからだ。
喜ばしい話にお酒がすすんだのを思い出す。
確か帰宅する頃にはだいぶ酔ってたような……。
「うん。うん、思い出した。思い出したけど、あのとき…私、めちゃくちゃ酔ってたよね!?」
ようやく目を開けてそう言う私に、母はフンっと鼻で笑う。
「そう、確かに酔ってた。でもね、母さんもバカじゃない。そんなときに話したって意味ないってわかる。だから…念のため、その一週間後けいちゃんが酔ってないときに改めて言いました! そうよね、証人のもえちゃん!!」
ぐっ……!
自信満々に萌香へ話を振る母に何も言えず黙り込む。
「うん。確実にお姉ちゃん、『わかった~』って言ってた。…こんなこともあろうかと、音声も録音しとるけど、聞く?」
スマホをちらつかせながら、にやりと笑う萌香に首を振る。
「いや、結構です……。認めます、聞いてなかったって…。ごめんなさい」
がくりとうなだれる私を見てケラケラと笑う萌香と母に謝罪し、改めて引っ越しの件を聞くこととなった。
「………つまり、私ひとりじゃ家賃含む金銭面で大変だろうから安いところに引っ越しなさいってことね。それも今月末までに…」
ちゃんと理解した私に二人は安心したようにうなずいていたが、すぐに神妙な面持ちで「うーん…」とうなり始めた。
「困ったねぇ、あと二週間しかないのに……」
「うん。このままだとお姉ちゃん、ホームレスまっしぐら……」
萌香の発言に私は苦笑いするしかなかった。