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Start Over Again
第3章 契約書
通せんぼ…?
いや、壁ドンならぬ…片手ドン?
少女漫画で見たことのあるシーンを思い浮かべながら、なんとなく反応しちゃいけない気がして、無反応のまま少ししゃがんで腕の下をくぐり抜けようとすると…それに合わせて腕も下に移動した。
それなら…と反対側からリビングへ入ろうと体の向きを変えようとすると手首をガシッと掴まれ、動けなくなった。
あっ…と思った瞬間、頭上から声がおりてきた。
「けいちゃん」
名前を呼ばれてビクッと肩を揺らしてしまった。
下を向いたまま「なに?」と小さく返事する。
「こっち向いて」
敬語じゃなくなってるし声がどことなく低い気がする。
「え…やだ」
「なんで嫌なの?」
「…なんとなく」
「どうしても、こっち見てくれないの?」
「うん。どうしてもーー…」
見ない。そう言いかけた私の頬に大きな手が触れた。
「じゃあ、僕が見るからいいよ。けいちゃんはそのままで」
目の前には朔ちゃんの顔。
私の顔を無理に自分へ向けさせようとはせず、かがんで顔の位置を私に合わせてくれてはいるけど、頬に触れてピッタリと離れないその手からは、逃がさないよ。という強い意志を感じる。
「母さんたちのこと…好きなんだよね。じゃあ、僕は?」
さらりと揺れる前髪の隙間から瞳が覗く。
「僕のこと、好き? 嫌い?」
ストレートにたずねられてドキッとする。
「その聞きかた、ずるくない?」
「ずるい? どこが? 好きか嫌いか、はっきりしないほうがずるくない?」
「そっ……ま、まぁ確かに」
「それで、どっち?」
私をぼんやりと映す瞳がじれったそうに揺れる。
「す…好きだよ。でも異性的な意味じゃなくてーー…」
人として、弟のような存在として、好き。
そう言おうとするのを阻むように、触れられた頬とは逆の頬に朔ちゃんの唇が触れた。
え。え、え、え?
今…ほっぺに…チューされてます???
カッと目を見開き、なにも言えずに固まっていると、ふふっ…と小さく笑う声がした。
いつの間にか唇は離れていたが代わりに両手で頬を掴まれる。
「僕もけいちゃんのこと好きだよ。僕のは異性的な意味でだけど…。けいちゃんが同じ気持ちになってくれるように頑張るね」
いじわるっぽく笑う朔ちゃんを見つめながら、腰を抜かしてしまった。