この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Start Over Again
第3章 契約書
「ふふふ。これ以上、余計なことを言うとあとでさっくんに怒られそうだからこのへんにしておくわ。けいちゃん、二人のことよろしくね。近いうちにお茶かお食事しましょうね」
そう言って手を振る由美子さん。
これで終わりかな、と油断していると
「あっ。言い忘れてたけど、お母さん55歳までにおばぁちゃんになるのが夢だからよろしくね~!」
そこで動画は終了した。
最後のよろしくね~は誰に対してのよろしくなのか。
聞かなかったことにしようか、と考えていると咲子がソファーから立ち上がった。
「母さん来月で53になるから実質あと2年だね。大丈夫、けいならいけるよ」
「いけるよ、じゃないよ。咲子が頑張りなさいよ」
「え、無理だよ。彼と結婚するつもりないのも、子ども苦手なこともけい知ってるでしょ。私はけいの子どもをたまに面倒見るくらいでちょうどいいと思ってるし」
咲子の事情は知ってるけど、私が子どもを産む前提なのはやめてほしい。
考えてることがきっと顔に出てたと思う。
近寄ってきた咲子が私の肩にポンッと手を置く。
「うん、けいの言いたいこともわかるよ。まぁ、こればかりはなるようにしかならないし…ってことで、いま考えるのはやめよう! じゃ、帰るね!」
面倒なことからは逃げる、という咲子の悪い癖が発動したことに気づいてすぐ引き止めようとしたが、私の手をするりとかわして咲子はあっという間に玄関へ行き、ドアを開ける。
「ちょっ…」
「また明日くるね~」
手をひらひらさせて軽やかな足取りで咲子は行ってしまった。
もうっ、自由人め! と内心で怒りながらも、なんだかんだで私も咲子に対して甘いよなぁ…。と日頃の行いを反省。
ふぅ、と息を吐いて玄関の鍵を閉め、リビングへ戻ろうと振り返ると朔ちゃんが立っていた。
「どうしたの?」
眉を下げて申し訳なさそうな顔をしている朔ちゃん。
「その…勝手な母と姉ですみません…」
「なに言ってんの。朔ちゃんが謝ることないよ。まぁ確かに? 勝手で自由人だし振り回されることもあるけど、二人のこと好きだからすぐ許しちゃうんだよね。あははっ、こんなこと言ったら私、どМみたいだね~」
くすくす笑いながら朔ちゃんのほうに近寄っていく。
横を通り過ぎようとしたとき、私の目の前にスッと腕が伸びてきて…朔ちゃんが壁に手をつけた。