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Start Over Again
第7章 ダブルデート
「…え、あの、それって……」
「山之内のことだよ」
はっきり言われたが、えええええ? と混乱が止まらない。
「じゃ…じゃあ…須藤さんの気になる人って……は…はし……」
「うん。橋本だよ」
衝撃的な告白に開いた口が塞がらない。
「さっき山之内の気になる人の話を聞いて、やっと確信できた。山之内や他の人じゃなくて、俺は橋本のことが気になってるんだって」
あ…もしや…。
「気づくまで山之内のことや他の人をよく見てたから…俺、目つき悪いし、嫌な思いさせてたら申し訳ない」
よくじぃーっと見つめられていたのは、そういうことか! と謎が解けてすっきりする。
「…確かに、よく見られてるなぁとは思っていました。正直、怖かったです」
「まじか…すまん!!」
手をパンッと顔の前で合わせて謝る須藤さんからは全く威圧感がない。
むしろ穏やかな空気感に私の気もゆるむ。
「もう気にしてません。でも…橋本くんだとは思いませんでしたが、須藤さんの話を聞いて納得しました」
橋本くんの誰に対しても物怖じしない性格を私も羨ましいと思っている。
「どんなときも愛想良く話しかけられたら正直嬉しいし、意外と優しくて思いやりがあるし、人として私も橋本くんのことは好きですから。…須藤さんのこと、応援します!」
「…ありがとう」
口角を上げて微笑む須藤さんがまぶしい。
恋をすると人は変わる。と耳にしたことがあるけれど、須藤さんの場合は良い変化だと思う。
恋をしている人は素敵だ。
……じゃあ、私は?
朔ちゃんと再会したことで、私にも少なからず変化が起きてる?
だけど…恋愛することに対してなかなか前向きになれない私が、思わせぶりな態度のまま朔ちゃんのそばにいていいのかな。
『好きじゃなくてもいいよ、今は』と言ってくれた朔ちゃんに甘えていいのだろうか。
…朔ちゃん…今頃なにしてるかな…。
迷う心とは裏腹に、早く朔ちゃんの顔を見たい。と思っている自分がいる。
「ずるいなぁ…」
自嘲的につぶやくと、須藤さんが首をかたむけた。
「何でもないです」と首を横に振って笑顔を向けながら、いまだに胸の奥に居座る古傷がちくりと痛むのを感じていた。