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Start Over Again
第1章 引っ越し

「けいちゃんっ、そんなことしないで。気持ちだけで十分よ! そんな頭を下げてもらうためにここに住むのを了承したわけじゃないし、むしろあなたのこと実の娘のように思ってるから、ここに住んでくれるだけで嬉しいのよ!」

焦って早口になる由美子さんに咲子がぶはっと吹き出す。

「まぁ確かに。鬼社長と呼ばれてる母さんがこんな焦って必死になってるなんて、社員たちは想像もしないだろうね。ってわけで、母さんがこう言ってるとおり、森川家にとってけいは家族のようなもんなんだから無駄に甘えちゃっていいんだよ。私のように」

咲子がのけぞってソファーにもたれかかり、わかりやすくドヤ顔をする。
その顔に私がふふっと笑うと、由美子さんも「あんたは甘えすぎよ」と笑っていた。


和やかな空気のなか、コンシェルジュの方が運んできてくれたコーヒーとお茶請けをいただいて世間話をしていると「あっ」と由美子さんがコーヒーを飲む手を止めた。

「忘れてたわ。あぶないあぶない……」

立ち上がってデスクのほうへ向かい、ファイルを手に戻ってきた。

「あのね、けいちゃん。あなたがここに住むことは決定事項なんだけど、一応ね、契約書と簡単な念書を準備してたの。ゆっくりでいいから確認してもらえる?」

「あ、はい」

ファイルを受け取りパラパラとめくる。
簡単といえど、契約書特有の甲やら乙やらの文字が並べられているそれを目にして少し緊張する。

しばらく目をとおしていると、気になる箇所があった。

「由美子さん、気になるところがあるんですが…」

私を待っているあいだ、ノートパソコンを持ってきて何か作業をしていた由美子さんに声をかけると、パソコンを閉じて「どこ?」と言いながら私の隣へきてくれた。

「ここの…【甲は乙に対し、所有する一部の部屋および施設の利用を無償にて提供するものとする。】というところなんですけど、もしかして……タダで住まわせようとしてくれてますか?」

私の問いかけにキョトンとした顔で由美子さんはうなずく。
今度は私が焦る番だ。

「いやいやいやっ、そんなのだめです! きちんと家賃お支払いします!」

「待って、けいちゃん。話を聞いて。あのね、本当に家賃はいらないの。だけど、その代わりといっちゃあれなんだけど、いくつかお願いがあって……」

由美子さんが困った顔をする。

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