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Start Over Again
第1章 引っ越し

その書類に目をとおすと、いま話していた内容とほぼ同じことが箇条書きされていた。


・山之内 恵香(以下、乙とする)は当マンションに居住する間の家賃および生活費は無期 無償とする。
・乙は当マンションに居住する間、森川 咲子の生存確認を怠らないこと。
・乙は当マンションに居住する間、森川家の人間との交流を怠らないこと。
・乙は当マンションを退去する際、いかなる理由においても半年前の申告・申請をすること。(これらに当てはまらない場合、退去できないものとする。)


最後の【半年前の申告・申請】というのが少し気になるけど、普通のアパートでも2~3ヶ月前に退去申告しなきゃいけないとこもあるみたいだし、高級マンションともなると半年前が普通なのかもな……。と質問することなく納得した。

「よく読んで、納得できたら下にサイン・捺印してね。まぁ内容は今まで話してたことだけど」
そう言う由美子さんからボールペンを受け取って丁寧に名前を記入した。

「ありがとう。これで手続きは終わり。清掃や害虫駆除も済ませてあるし、今日から住んでオッケーよ。けいちゃん、荷物は多いの? 引っ越し業者まだなら手配するけど」

「いえっ大丈夫、大丈夫です! そもそもの荷物も少ないし、萌香の彼の勤め先が引っ越し業者で、そこに頼もうと思うので!」

デスクの電話の受話器を持ち上げて、今にもコンシェルジュを呼びつけそうな由美子さんを慌てて制止する。

住まわせてもらって家賃も無償なだけでありがたいのに、これ以上お世話になるのはさすがにやめておきたい。
どうしても困ったときは頼らせてもらうけど、私も大人なわけだし自分でできることは自分でしなくては。

そういう気持ちがなんとなく伝わったのか、由美子さんは受話器をそっと置くとデスクに頬杖をついて微笑む。

「そっか。じゃあ、もし困ったら言ってね。約束よ」

「はい。約束します」

そう返事すると由美子さんはさっきの書類をもう一度取り出してスラスラとボールペンをはしらせた。
何を書いてるのか覗くと、サインしたところのすぐ上に【けいちゃんは困ったらすぐに由美子へ連絡すること!!!】と書いてある。

「これで、けいちゃんは約束を守らないといけませんっ!」

いたずらっぽく笑う由美子さんを見て、ああ…この人には一生かなわないな、好きだなぁ。と改めて思った。

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