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第1章 １

「話が早くて助かります。あなたの名前は？」
　女性は少し考えてから答えた。
「……私にも名前つけてください」
「話が早いと思ったけど、面倒くさい人ですね」

　男性——『サトウ』が少し困った顔をしてみせるが、女性はいたって真面目な表情でその様子を見つめている。

　サトウは花火が彩っている夜空の方を向いたまま、言った。
「『しず』」
「うそ……」
　女性は両手で口を覆って目を見開いた。
「……何がです……？」
「『シズク』っていう名前なんです、私……」
　サトウは女性——シズクから少し目をそらせて、つぶやくように言った。
「……すごい偶然、ですね」
「……どうして『しず』って言ったんですか……？」
　サトウは目をそらせたまま、だまっている。

「サトウさんの……ご先祖さまはお侍さんじゃない……ですか？」「シズクさん、さっきの返事聞いてないんですけどね」サトウがシズクの言葉をさえぎるように言った。