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永眠を捨てた青少年
第1章 1
(4)
それからのことは、だいたいのことしかシズクの記憶に残っていない。
ヘリコプターでどこかの山中に降り立ち、サトウに抱きかかえられたまま大きな洋館の中へと運び込まれた。
サトウは雀之丞(じゃくのじょう)という名前の初老の執事にいろいろと指示を出していた。話の詳細までは聞き取れなかったが、シズクの扱いに関してであることは確かだった。
ヘリコプターを操縦していたのもこの雀之丞らしい。
執事といっても雀之丞は、いわゆる漫画などに出てきそうな執事然とした服装ではなく一般的な濃色のスーツにネクタイ姿で、頭髪だけでなく口ひげまできれいに白に近いグレーに染まっていた。
顔色ひとつ変えず常に気難しそうな表情をしているが、姿勢も所作も年齢を感じさせない機敏さで、サトウのことを『若さま』と呼んでいた。
大正ロマンを感じさせるような、それでいて雑多ではなく小綺麗にまとめられた大きな部屋で、シズクはベッドに寝かせられた。
サトウは「まずはゆっくり休んでください」とだけ言ってくれたと思う。
そのあと、サトウも雀之丞も部屋に来ることはなかったが、代わりに胡珀(こはく)という雀之丞と同じ歳くらいの初老の女性が、シズクの身の回りの世話を全部やってくれた。