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第1章 １

　シズクはとまどったが、言葉を続けてみた。
「サトウさんは……いつお戻りになりますか……？」
「分かりません」
　執事なのに分からないなんてあるのだろうか？

　シズクにはもうひとつ確かめてみたいことがあった。
「雀之丞さんは……その、お侍さんのご子孫ではありませんか……？」
　雀之丞の横顔にほんの少し、警戒する色が見えたような気がした。
「……どうでしょうね」

　シズクは何を言っていいのか分からなくなってしまった。
「お花、きれいですね。全部雀之丞さんがお手入れを？」
　口にしてから、いかにも社交辞令のようだとシズクは後悔した。
　突然、雀之丞はシズクの方に顔を向けた。

「そうなんです、これだけ庭にたくさんの花があると世話も簡単ではありません、ですがどれも可愛いのです、花が開きそうになると気が気ではなくいっときでも目を離したくないのでこの石畳に布団を敷いて小刻みに睡眠を取りながら見守りたいのですがそれは妻に強く止められております、若さまは好きにしろとおっしゃるのですが」

　いきなりの雀之丞の饒舌ぶりにシズクは面食らってしまった。
　表情はずっと無愛想を保ったままだが、少なくとも、悪い人ではないらしい。