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永眠を捨てた青少年
第2章 2
(2)
鹿狩家屋敷——その奥座敷で、小霧は義父の龍玄(りゅうげん)の前に向かい合って座っていた。
座敷に入ってから、龍玄はまだひと言も口に出していない。
小霧も同じだった。
縁側の障子は開いたままで、夕日を浴びている庭からは晩夏のやや涼しい風が吹き込んでくる。
龍玄は険しい表情のまま微動だにしない。
小霧はこれまで、義父の笑顔などついぞ見たことがない。そのうえ大柄で強面であるために、初めて龍玄に会う者はみな一様にひるむ。
だが小霧にとってはそれが日常だ。龍玄の強面がさらに険しい表情になったところで大きな変化ではない。
そして、龍玄が落胆したり悲しんだりしている顔も見たことがない。
まして、今は悲しむ必要もない。
小霧の方から、静かに切り出した。
「……なぜ月下丸が亡くなったなどと嘘を申されたのですか」
小霧は、まだ赤子の月下丸の姿を思い浮かべた。