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特別棟の獣
第8章 夏休み②

「その汚い手離せよ」


いつもより声は低いけど、これが誰の声なのか見なくても分かる。


「り、おっ…」

「もう百合はひとりで電車乗るの禁止ね」


視界に吏生さんが映るだけで一気に恐怖が私の中から消える。


「なんだよ、もう彼氏のお出ましか」


男の人はそう言って掴んでいた手を離す。


「おいで百合」


その言葉に身体が勝手に吏生さんの方へ向かっていった。


「もう、百合は可愛いんだから気をつけないと」


泣きそうになる私の頭を撫で、吏生さんは腰に腕を回してロータリーに止めてある車に向かっていき、助手席のドアを開けてくれた。


「怖かった?」

「……はい」

「ごめんね、俺が車から出て待ってれば良かったね」


車はすぐに走り出し、マンションに向かっていった。
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