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ウンディーネの泉
第3章 映画館
 口から離したペットボトルを膝の上に置き上目遣いで見上げてくる。
 「痛かったんだからね。」
 「ごめん。」
 「びっくりしたんだからね。」
 「ごめん。」
 何を言われてもそれしか返事のしようがない。
 「何であんな事したの?」
 「ごめん。」
 「何で?」
 これはごめんでは返事にならない問い掛けだ。
 「そ、それは。・・・・・・ミユが好きだから。」
 えぇ~い!俺は思春期のガキか?
 もっと気の効いた台詞はないのかよ!
 脳内で自分をタコ殴りにしながらミユの様子を伺う。
 「ふ、フ~ン。そ、そうなんだ。」
 生返事をしながら手はペットボトルを所在なく弄び視線は宙を彷徨っている。
 「じゃ、じゃあ。ミユはカズ兄ちゃんの恋人?」
 コ・イ・ビ・ト
 甘美なフレーズに思わず何度も頷く。
 「そっか。こ、恋人なら仕方ないよね。き、キスしたり、え、エッチするのも。」
 蚊の鳴くような小さな声だったが俺の耳は一言一句聞き逃さなかった。
 許された。
 いやそれより「恋人」と認められた。
 思わずミユの手を取ると耳まで真っ赤に染めながら指を絡めてくる。
 「お詫びにご飯でも食べに行こうか?」
 「嫌。」
 え?
 100%O.K.貰えると思っていたのに突然の拒絶。
 何?
 何処で何を間違えた?
 「お詫びじゃ嫌だ。」
 ・・・・・・
 !
 「・・・じゃあ、デ、デートしない?」
 必死に絞り出した言葉にミユは小さく頷く。
 デート!
 ミユとデート!
 舞い上がる気持ちと裏腹に極度の緊張で喉がカラカラ。
 ミユの手からペットボトルを取り半分以上残っていた中身を一気に飲み干す。
 「い、行こうか?」
 促されるままにミユは立ち上がった。
 前回同様プールの入口で待ち合わせの約束をして着替えの為に一度別れる。
 本当は駄目なんだろうがシャワーも浴びずに大雑把に塩素臭い水を拭いて手早く着替える。
 急いだ甲斐があって待ち合わせ場所にミユの姿はない。
 よし!
 呼吸を整え澄まし顔を作る。
 「カズ兄ちゃん、お待たせ!」
 更衣室の方から小走りでやって来たミユは素足にサンダル。薄ピンクのミニスカートにグリーンのタンクトップという軽装。
 一歩進む毎にポニーテールが揺れる。
 「いや、今来たところだよ。」
 クゥ~!
 これこれ。
 デート待ち合わせのテンプレ。

 
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