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熱帯夜に溺れる
第6章 泳げない魚たち
 井上は一見すると陽気な人間だ。けれど、莉子は井上の本当の顔も彼の性格のすべてを知らない。
 井上から恋愛感情に通じる好意を持たれていたのか莉子は今でもわからないが、それなりに親しくしていたバイトの後輩が、実は年上の社員と交際していたなら、少しくらい揶揄《やゆ》もするだろう。

「井上さんと気まずくなったりしてない?」
「井上くんも大学卒業までの勤務だから今月一緒のシフトも数えるほどしかないし、まぁ大丈夫だよ」

 どこまでも続く白い空が憂鬱を加速させる。楽しいはずのドライブデートも今日は会話が弾まない。

 最後のデートはあえてのノープラン。映画を観たりショッピングモールに入りたい気分でもない。

 道中に見つけたイタリアンレストランで昼食を済ませ、あてのないふたりのドライブは続いた。
 次第に市街地から離れていく景色を見て急に心細くなった。

「どこに行くの?」
「莉子を連れて行きたい場所があるんだ」

 車が対向車の少ない片側二車線道路を通って一本道に入った。車窓を流れる風景が莉子の胸に冷や汗を落とす。

「えっと……山?」
「山だね」
「そんな軽い調子で言わないでくださいっ!」
「この景色を見て海とは言えないだろ」

 楽しげに冗談を口にする純と行き先が見えずに不安がる莉子の軽口で途端に車内に明るさが宿った。

 フロントガラス越しの視界には寒空の白色と枯れた木々の茶色しかなく、彼は車のナビも見ずに鬱蒼《うっそう》とした山道を登っていく。
 こんな辺鄙《へんぴ》な場所に何がある?

 やがて開けた場所に出た。駐車場のようだ。

「気持ち悪くなったりしてない?」
「そんなに揺れなかったし大丈夫」

 不思議なもので山を登った感覚はない。しかし駐車場からは莉子の住む街の景色が一望できた。

「ここから少し歩くから足元気をつけてね」
「はーい」

 今日のブーツのヒールは高い方ではない。補整されている遊歩道とは言え、まさか山道を歩く事態になるとは思わなかった。

「私のブーツのヒールが高かったら、純さんを末代まで呪うところだったよ」
「まるでクレオパトラの鼻が低かったら、みたいな話だな。莉子の靴のヒールが高かったら、違う場所を選んでいたよ」

 ふたりは手を繋いで遊歩道を歩く。森に囲まれた小道はどんどん山奥に入っていくから冒険気分が味わえて楽しかった。
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