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熱帯夜に溺れる
第6章 泳げない魚たち
 クチュ……グチュ、クチュ……、純の柔らかな舌が蜜壺の割れ目に沿って動き、クリトリスを舐め上げる。ヒップを鷲掴みしていた彼の指の腹は莉子のアナルをやらしい動きで撫で回している。

「ァアン……! ハァハァ……アンッ」

 夢中で女を味わう男と目が合った。少し細めた純の妖艶な目付きに胸が甘い痛みを訴え、下から与えられる快楽に狂わされる。

 この男は優しいのか、ずるいのか、確信犯なのか、天然なのか、実態がよくわからない。
 ひとつ確信を持って断言できるのは、惚れた女にはとことん甘い。だから今は莉子にだけ、彼はこんなに甘ったるい。

 全身への愛撫を長く丁寧に行う純との情事は体力との勝負だ。でも、もう危ない。莉子は身も心もすべてを純に搾り取られてしまいそうだった。

 もっと彼を近くに感じたい。いちばん近くに彼を感じて、彼を忘れないように、彼のすべてを覚えていられるように……。
 繋がる準備を始めた彼の手を衝動的に掴んでいた。

「莉子?」
「つけないで」

 純が息を呑む気配と動揺が触れた手から伝わった。彼は即座にかぶりを振る。

「ダメだ」
「最後だから……」
「最後だからこそダメなんだ」
「純さんを忘れないようにしたいの。私に、純さんを忘れられなくさせて……?」
「……馬鹿だなぁ」

 未開封のコンドームが純の手を離れた。莉子の頬を撫でて囁いた「馬鹿だなぁ」には呆れと慈しみがこもっている。

「馬鹿でごめんなさい」
「俺も馬鹿だよ。本当に……。どうしようもない馬鹿だ。いつかは、こうなることを期待していた。莉子を傷付けたくないのに……」

 大きく溜息をついてぐしゃぐしゃと髪を掻きむしる彼の目の色は、先ほどよりも雄の気配が濃くなっていた。

「後悔しない?」
「したとしても相手があなたならいい」
「妊娠させるかもよ?」
「いいよ」

 そうなったらそれでもいいと後先考えずに莉子が口走れば、乱暴なキスでベッドに押し倒された。

「そんなこと二度と言うな」

 怒っている? 泣いている? 困っている?
 純はどこまでも優しいから乱暴な仮面を被ったキスも最後は優しい。
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