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熱帯夜に溺れる
第6章 泳げない魚たち
 ──そして今年もまた夏が巡る。
 雨上がりの空に夏の匂いを感じて、きゅんとして切なくなった。

 捨てられない夏がある。忘れられない夜がある。
 彼と結ばれた夏は何年経っても息苦しくて、心がきゅっと痛くなる。彼と過ごしたあの暑い季節を莉子は今でも愛していた。

 あの時、上京への道を選ばなければどうなっていたんだろうと考えた。
 彼とあのまま一緒にいられたら自分達はどうなっていた?

 頑なに結婚を選ばない彼に業を煮やして、莉子も由貴と同じく彼に別れを切り出していたのだろうか。それとも……。
 今も莉子はその答えを出せないまま、何度目かの夏が巡り廻った。

◆◆◆◆

 引き出物とはどうしてこんなにも重たいのだろう。ホテル名の刻印が入る上質な紙袋を片手に佐々木莉子は道端でうなだれた。

 駅舎の影に入って彼女は一息つく。ちょうど空いていたベンチに腰を降ろして、バッグからスマートフォンを取り出した。

 スマホをタップする莉子の指先を彩るネイルは、くすみピンクをベースに爪先にホワイトとオーロラのシェルを埋め込んだフレンチジェルネイル。シェルパーツで夏らしさを出しつつ、ベースカラーのくすみピンクで秋を先取りできるこの時期に人気のデザインだ。

「コメントはいい式だったね、だけでいいよね……」

 スマホに表示した友人のインスタグラムには先ほど行われた披露宴の模様を写した写真がさっそく載せられている。今日は高校時代の友人の結婚式だった。

 これで高校の仲良しメンバーでは莉子だけが唯一の未婚となってしまった。披露宴で同じテーブルに着席した仲良し組の話題はもっぱら、旦那の愚痴にノロケ、保育園の話題や2人目育児の話が大部分を占めていた。

 昔は、男性アイドルのコンサートのたびに都会に遠征に出ていたアイドルオタクの友達や、彼女がいる男とのセカンドの恋に走っていた友達が、今は何食わぬ顔で主婦をして母親をしているのだ。彼女達の歴史を知る者としては感慨深い。
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