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熱帯夜に溺れる
第6章 泳げない魚たち
 普段は酒を飲まないが、下戸《げこ》でもない純と共に駅前の居酒屋に入った。上京する前はこの場所は居酒屋ではなかったと記憶している。確か、ここはお好み焼き屋だった。

 ビールで乾杯したふたりは離れていた間の11年の歳月を埋めるように、互いの話をポツリポツリと重ねた。

 莉子は現在、東京北青山にあるネイルサロンで店長を務めている。伯母の美容会社が出したネイルサロンの2号店だ。
 そんな洒落た街で店長として働く莉子を純は凄い凄いと褒めそやした。

 純は11年の間に、市内や県内の支店を回って店長の任に就いたらしい。その後は本店の事務所に数年居て、今は本店4階フロアの部長。
 着実に出世の階段を上がる彼の左手薬指に指輪の存在はなく、またしても莉子は安堵する。

(今頃になって由貴さんに言われた言葉の意味がわかるのもおかしな話だよね。純さんが結婚していたら私も許せなかったかも)

 幸せになって欲しいのに自分以外の誰かとは幸せになって欲しくない。純への感情には、そんな複雑な想いが含まれていた。

 目の周りのシワは少し増えたかな……、中年太りとは無縁そうな痩せた腰回りは管理職の激務の影響か……、グラスを持つ手の甲は筋張り、肌はあの頃よりも浅黒く乾燥している。不味いと言いながらも吸っていた煙草は止めたのだろうか?

「それって結婚式の引き出物?」
「えっ? ……うん、そうなの。高校の友達の結婚式があったんだ」

 年輪を刻む純の容姿をぼうっと見つめていた莉子は、彼の問いに一拍遅れて反応した。莉子の隣の椅子には引き出物の紙袋が鎮座している。
 莉子が纏うワインレッドのレースワンピースも普段着ではなく、いかにも結婚式の参列者の服だ。

「これで高校の仲良しメンバーはみんな結婚しちゃって私だけが独身。久しぶりに集まったのに、披露宴でも旦那や子供の話題ばっかりで話についていけないの。親友も去年結婚しちゃったから、もう夜遊びにも誘えなくて」
「ははっ。莉子も友達の結婚式に行くような年齢になったんだな」
「私だって今年で32だよ」

 唇を尖らせて莉子は純を軽く睨む。莉子の睨みなど純には子供が拗ねているようにしか見えないのか、アルコールで赤らんだ顔を優しい微笑に変えた。
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