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熱帯夜に溺れる
第6章 泳げない魚たち
 一体、何歳に思われていたんだろう。32歳となる彼女を前にしても、彼の中では〈佐々木莉子〉はハタチの小娘のままで止まっている?

「昔は可愛かったけど、今の莉子はあの頃よりさらに綺麗になった。道端に美人がいて驚いたよ」
「酔ってる? もしかして口説いてる?」
「酔ってるし、口説いてる。大人の女になったな」

 熱を孕んだ瞳と瞳がぶつかった。途端にざわつく心の海。穏やかだった水面は荒波で揺れ、ここからは危険だと警鐘を鳴らす。

 咄嗟《とっさ》の上手い返しが何も浮かばず沈黙する莉子と、彼女の沈黙すらも愛しげに包む純の駆け引き。
 鎮まらない胸のざわめきと、心の最奥の甘い痛みには覚えがある。ああ……これは危ない、すでに莉子の心中の戦いは本能と理性の一騎打ちだった。

 居酒屋を出ると街には夕闇のカーテンが落ちている。むわっと肌に触れた湿気と熱の混ざった空気は熱帯夜の予兆。

 どうすればいいかも、どこに行きたいかも答えが出ない男女はただ歩調を緩めて歩くしかなかった。

 純の後ろを、莉子は人ひとり分の間隔を空けて歩く。長身の彼の身体越しに駅前の通りを見据えた。
 あそこのコンビニの角を曲がれば駅舎に繋がる道に出る。道の先まで行けば、この夢は終わってしまう。

「新幹線の時間大丈夫? 間に合いそう?」
「……間に合わなくなっちゃった」
「え?」

 立ち止まった莉子はバッグから取り出したスマートフォンの時刻表アプリを開いた。ここから東京までの乗り換え案内の画面を純に向ける。
 純は戸惑いがちに莉子のスマートフォンを凝視した。

「あと2分で豊橋に行く快速の電車来ちゃうんだ。それに乗らないと最終の新幹線には間に合わない。こうなることがわかっていて、純さんを飲みに誘ったの。……ごめんなさい」

 快速列車の到着時刻まで残り1分を切った。今から走れば間に合うかもしれない。
 けれど莉子は走り出さない。今夜中に東京には戻らない。
 青陽堂書店のビルの前で純と再会した時から、莉子はこの結末を予期していた。この結末を望んでいたと言ってもいい。
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