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熱帯夜に溺れる
第6章 泳げない魚たち
 上下の位置が入れ替わったふたりの唇が密着する。口内に差し込まれた純の舌に莉子はあっさり捕まって、ふたつの舌が絡み合い、唾液が交ざり、結合部からは男と女が交ざる水音が響く。

「アッ、そこ……気持ちいいっ……アッン」

 手を繋ぎ身体を密着させて、互いの口の端に唾液が垂れるのも構わずキスをしながら、ふたりは腰を揺らした。

「莉子……チュ、チュゥ……綺麗だよ……」
「ンっ、アッ……純……さぁん……好き……、大好き……チュゥ、チュパ……」
「俺も愛しているよ。ずっと莉子だけを愛してる」

 傷付いて冷たく凍った心は耳元で囁かれる温かな愛によって溶かされて、涙になった。
 こんな時にどうして泣いているのか純は尋ねない。けれど目尻を濡らす涙を拭う、ささくれだった指先は優しい。

 年齢に応じて変化する体型を元彼に揶揄された傷、浮気をして裏切られた傷、友達の結婚が嬉しいのに素直に喜べないのは嫉妬や僻みではなく、大好きな遊び相手をどこぞの男に取られた寂しさ。それらすべてを純は包み込んでくれた。

 きっと純は、莉子の身体が今よりもっと肉感が増してだらしなくなってしまっても抱いてくれる。目尻にシワができても、ほうれい線が目立ってきても、可愛いと褒めそやして愛を囁き、熱い口付けをしてくれる。
 莉子が純に対してそうであるように、確証のない確信の愛がここには宿っている。

「……ッ、ハァッ……莉子……イきそう……」
「ァン……! イッて……私のナカで……ァアン……!」

 莉子の言葉を合図に律動の刻みが激しさを増す。彼女は射精間際の獰猛《どうもう》な雄に変化した純の背中に強くしがみついた。

「ンッ、ァアンッ、純さぁん……。ァッ……!」
「莉子……ゥヴッ……!」

 そうして訪れたふたりの今日2度目の快楽の解放は、とてもとても濃密な一瞬となった。

        *

 情欲の火照りが消えない裸体をシーツにくるんで、莉子は室内に視線を巡らせる。純と入室した直後は部屋の内装を気にする余裕もなかった。

 こんな部屋だったか……と彼女は自分で選んだラブホテルの部屋を焦点の定まらない視界でぼんやり眺める。
 フロントのパネルで部屋を選ぶ時も、こだわりなく空いている部屋を選択したに過ぎない。それくらい気が逸《はや》っていた。
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