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熱帯夜に溺れる
第2章 夏の夢
「レジ抜けて大丈夫なんですか?」
「今はお客さん少ないから。主任もいるし、ゴミ捨てするくらいの時間なら抜けても平気」

 確かに土曜の夕方、16時から17時台は昼前と昼過ぎのピーク時に比べて客足は減る。外出を楽しむ人々も、ティータイムの時間を過ごしていたり早めの帰路につく人が現れる時刻だ。
 逆にこの時間帯のカフェはカフェスタッフにとっては戦場だろう。

 しかし、新人の大橋を放ってこちらに来ても大丈夫なんだろうか。いざとなれば主任が控えているから問題はなさそうだが。

(でもどうして私の方に来てくれたの?)

 ゴミを乗せた台車を押す純がエレベーターを呼び出す隣で、莉子は彼を盗み見る。エレベーターが軋んだ音を立てて口を開けた。

 莉子達はエレベーターに台車を運び入れて、莉子が閉のボタンを押す。

「佐々木さん体調悪い?」
「え?」
「たまに腰さすったりお腹押さえてたりしてるよね。だからひとりでゴミ捨ては大変かなと思って」

(ああ……、バレてたんだ……)

 女特有の月イチでやって来る生理期間の中で最も重たい日が今日だった。昼食時に生理痛の鎮痛薬を飲んで多少は痛みの緩和されているが、身体の重だるさは消えない。

 3階から1階に移動するだけのエレベーターはすぐに到着した。

「大丈夫です。生理痛……なだけですから」

 生理痛の部分は恥ずかしくて小声になってしまう。でも純にはちゃんと聞こえていた。

「ああ……そうか……。女性は毎月大変だよね……」

 純もまさか体調不良の原因が生理だとは思っていなかったのか、予想通りかは彼しか知らない事情でも、なんとなく流れる気まずさに、ふたりして沈黙を作ってやり過ごす。
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