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熱帯夜に溺れる
第2章 夏の夢
 掛け時計の針が18時の5分前を指し示した。
 この後も残る店員達に仕事の引き継ぎを頼み、莉子は中央レジを出た。レジを出る時に同じく引き継ぎの最中だった純と目が合い、彼女達は互いにしかわからないアイコンタクトを取り合う。

 先に5階の女子更衣室に戻った莉子は帰り支度と着替えを始めた。
 心臓がドキドキと騒いでいる。尋常じゃない緊張感で今にも倒れそう。

 今日の服はワンピースではない。
 ピンクベージュのノースリーブのブラウスにひらりと揺れるローズ柄の膝上5センチのスカートを合わせた、名付けて品のいいお嬢様ファッション。

(品が良いのは服装だけなのが残念なところではある。この前のオナニーで純さんにフェラしてあげる妄想しちゃってから、もう純さんのおちんちんにしか目が行かない……)

 軽くメイク直しをして、いざ出陣。ここが女の勝負どころだ。

 5階フロアを出た先の廊下で純が待っていた。莉子より遅く更衣室に入った彼は予想通り莉子よりも早く着替え終わっていた。
 何の装飾もないシンプルなTシャツにジーンズ姿でも純は長身で手足が長いから様になる。

「お待たせしました」
「行こっか」

 ふたりだけでエレベーターに乗り込むと、ゴミ捨ての時のふたりきりの時とはまた違う緊張感が漂っていた。

「どこかカフェにでも入る?」
「ごめんなさい、人のいない場所でお話したいことなので……」

 何しろ莉子がこれからする話は「あなたが好きです」と言うのだ。人のいるカフェで告白は恥ずかしい。

「人のいない場所か……」

 人がいない場所で話したいこと。それだけでどんな話かは、大方の予測はできるはず。
 彼は何を考えている?

「八丁通りのケーキ屋の前に公園があるよね。そこはどう?」
「じゃあ、そこで……」

 駅前の大通りから脇道に入った八丁《はっちょう》通りには中規模の公園がある。公園の前には可愛らしい外観のケーキ屋があり、莉子もそこで何度かケーキを購入している。
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