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熱帯夜に溺れる
第3章 熱帯夜に溺れる
 7月第3週の日曜日は真夏日だった。太陽は青空の中心でギラギラと輝いていて、莉子の頭上を容赦なく照り付ける。焼けると言うよりも焦げてしまう暑さだ。

 駅ビルの自動扉をくぐると店内の冷気にホッとした。時刻は約束の15分前。化粧室でメイクとヘアーの最終チェックをする。

 口紅を持つ莉子の爪は細かなシルバーラメ入りのペールピンクのマニキュアで彩られていた。本音はもう少し派手めにネイルも着飾りたかったが、年上の男性との初デートはこのくらいの控えめな雰囲気がちょうどいい。

 それに純の好みもまだわからない。意外と派手なギャル系が好きかもしれないし、大和撫子なお嬢様系が好みかもしれない。
 男受けは気にしなくても、好きな人受けは気になるものだ。

(このリップの色、最高に可愛いっ! 今日は名付けて〈思わずキスしたくなる唇〉にしてきたんだよね。いつ何が起きても大丈夫っ。カモン純さんっ!)

 駅ビル内の化粧室でメイク直しを済ませ、エスカレーターで2階に上がった彼女の足取りは軽い。
 そこそこ客足の多い人の波を掻き分け、待ち合わせ場所とした書店の前に辿り着いて、深呼吸。

 もう来てる? まだ来てない?

 書店を見回すと、ひときわ長身で細身の男性の背中を見つけた。見つけた瞬間に高鳴る鼓動があの背中が彼だと教えてくれる。

「純さん」

 近付いて彼の名を呼んだ。雑誌を見ていた竹倉純は莉子を見て微笑する。

「こんにちは」
「……こんにちは」

 仕事以外で顔を合わせるのは今日が初めてとなり、やけに緊張して互いに照れ臭い。

 純は無地のグレーのTシャツにジーンズ姿、帽子やアクセサリーの装飾品もなく、嵌めているのは腕時計のみ。仕事の帰りにいつも見慣れている彼のスタイルだ。

 しかしお洒落をしている風ではないけれど清潔感がある。清潔感は男に最も必要なものだ。それさえあれば着飾った服装をしていなくても問題ない。

「今日暑いね。ここまで来るの大変じゃなかった?」
「暑くて焦げそうになっちゃった」
「ははっ。莉子ちゃんは言うことが面白いなぁ」

 純が読んでいた雑誌を棚に戻し、莉子達は書店を出て駅ビル内を歩く。
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