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熱帯夜に溺れる
第3章 熱帯夜に溺れる
 その洞察力のおかげで、中学時代からは人をまとめる役割に就く機会が増えた。高校時代には生徒会の副会長もこなしてみせた。
 でもどんなに明るくてリーダーシップのある〈佐々木莉子〉を自己プロデュースしても、根本の内気さは変わらない。今でも知らない人間が多く集まる場では、意識的に自分の意見を抑えてしまう。

「私はダークなの。本当は引っ込み思案だし人見知り。弟みたいな太陽じゃない。私には、ぽかぽかした日向は似合わない」

 突然、車が路肩に寄って停車した。交通量の少ない道では莉子達を追い抜く車もない。

「……それでも莉子ちゃんは日向にいるのが似合うよ」

 戸惑う莉子を純は抱き寄せた。そのままぎゅっと抱き締められて、心がぎゅっと痛くなる。彼の身体からほのかに香るウッディ調の穏やかな香りが心地よい。

「莉子ちゃんの笑顔に俺は救われていたんだ。莉子ちゃんは日向が似合う子だよ」

 優しく頭を撫でられた途端、それまで我慢していた気持ちが溢れるように、じわりと涙が零れた。

 日向が似合う──、可愛い、好き、そんなありふれたセリフじゃなくて、たったそれだけの言葉なのに、莉子が求めていた一番言って欲しかった言葉を純が贈ってくれた。

 ここまで内面をさらけ出せた相手は純が初めてだ。過去の恋人にも弟に抱いているコンプレックスや内向的な本来の自分を打ち明けはしなかった。

 固くなっていた紐の結び目がするするとほどけるように、純にだけはすべてをさらけ出せてしまえたのはどうしてだろう?

「自分とは真逆な兄弟を羨む意味では俺も莉子ちゃんと同じだよ」

 再び走り出した車内で純は呟いた。泣いて崩れたメイクが気になって目元にハンカチを当てていた莉子は顔を上げる。

「俺も2歳上に兄貴がいたんだ」
「いた?」
「そう過去形。俺が中学2年の時、高校生だった兄貴は死んだんだ」
「病気や事故……で?」
「……自殺だよ」

 予想していなかった展開に莉子は言葉を失う。

「兄貴は勉強も出来て親からも愛されていた。そんな兄貴がどうして自殺なんかって今でも思う。親の期待やプレッシャー……、兄貴にしかわからない苦しみがあったんだろうな。真実はわからないけど、学校でいじめられていたんじゃないかって話は聞いてる。兄貴も色々あったんだろうね」

 純の横顔は哀しい翳りを宿していた。
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