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熱帯夜に溺れる
第4章 酔芙蓉の吐息
 18時に勤務を終えた帰り道、莉子は自転車を引く純の横を無言で歩いていた。ふたりの足は駅裏にある純の自宅方向に向かっている。
 どこかで夕食を食べようとの純の提案にも首を横に振り、とにかく一旦は純の家に行きたいと莉子がゴネたからだ。

 歩いて20分程度の道のりがずいぶん長く感じる。8月末の夜の空気にかすかに秋が混ざり始めていた。
 9月になっても残暑は厳しいが、9月に入った途端に夏らしいサンダルがこの世界には似合わなくなる。

 莉子の足元を彩るゴールドのサンダルも、今日を最後に靴箱の住人だ。また来年も純の隣を、お気に入りの靴で歩きたい。
 そう、思っているのに。

 カンカン、とふたり分の足音を響かせてアパートの外階段を上がる。純が開けた扉から身体を奥に滑り込ませた莉子は、鍵を締める純の広い背中にしがみついた。

「莉子?」
「純さんって元カノ何人いるの?」
「いきなり何を……」

 ふたりは暗い玄関に立ち尽くす。莉子は彼に靴を脱ぐ暇も与えなかった。ヒールの高いサンダルを履いた彼女は、普段より少しだけ距離感が縮まった純の顔を見上げる。

「私よりも人生経験がある純さんの元カノのことは考えても仕方ないと思って考えないようにしていた。でも無理だよ。キスもエッチも、純さんは沢山経験積んできたんでしょ? 今まで何人の人としたの?」
「そんなこと聞いて何になる?」
「わかってるよ……。だけど考えちゃうんだよ。私の前に何人の女が純さんに触れたんだろうって……何人の女に触れてきたんだろうって……」
「莉子。落ち着いて」

 今にも泣き出しそうな莉子の震える肩が純の両腕で包まれた。1日仕事を終えた男の身体からは、汗の匂いと、紙の匂いと、ふたりが働く職場の匂いがした。

「あのね、今からすごくうざくて性格悪いこと言っちゃうけど嫌いにならない?」
「ならないよ。莉子を嫌いになることはないから、安心して何でも話して」

 この男はどうしてここまで優しいの?
 彼の優しさに値する女じゃないのに、彼はいつも優しくしてくれる。その優しさに甘えて、莉子はどんどんワガママな女になってしまうんだ。

「今日、純さんが可愛いお客さんに笑顔で接客してるの見てモヤモヤした」
「ハァー。まったく莉子は……」

 耳元で大きな溜息をついた彼は抱き締める腕の力をさらに強くした。
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