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熱帯夜に溺れる
第4章 酔芙蓉の吐息
「いっそのこと結婚してもらえば?」
「……はぁっ!? ちょっと知咲、いきなり何言い出すの!」
「だって竹倉さんの年齢考えたら結婚の話が出てもおかしくないよ。結婚して竹倉さんにしばらく養ってもらえば莉子は地元出なくてもいいじゃん。それで通勤可能なエリアまで範囲広げて就活すれば?」
「それはあまりにも他力本願だよ……。でも結婚かぁ。全然そんな話はないけど、純さんの年齢考えるとそうだよね。結婚……」

 まだ付き合って3ヶ月未満、学生で年齢もハタチの莉子相手に結婚話が出ないのは当然だとしても、純は莉子との未来をどう考えているのだろう。

(そもそも純さんて、これまで結婚を考えた元カノはいたのかなぁ。前に元カノの話を聞いてもビミョーにはぐらかされちゃったんだよね)

 昔の恋人の話を聞いても互いに不快になるだけだからと、最初に尋ねた8月の末以降は純の過去の女のことは考えないようにしていた。
 彼も36歳になる大人だ。莉子が知る限りは婚姻歴はなさそうだが、結婚を考えた相手がひとりくらいは、いたかもしれない。

(もしもバツイチで子持ちでした……と暴露されたらどうしよう。でもでも、都合があえば日曜日は絶対デートしてくれるし、家にいても見られちゃ困る物《ブツ》を隠し持ってる風でもないし……。バツイチ子持ちだと隠してたってさぁ、ねぇ? 色々とバレてくるものだと思うんだよ)

 誰に問いかけるでもなく自問自答した彼女は不採用通知で埋まる携帯電話をバッグの底に放って、昼食のサンドイッチにかぶりついた。
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