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雨の降る夜は傍にいて…
第3章 9月の雨(September Rain)
 12 二軒目へ

「代わりに、彩ちゃんをよろしくお願いしますね」
 そう付け加え、彩ちゃんに目で合図をした。

 すると…
「ちょっと、俺もこの後予定が…」
 と言って鈴木専務も気を遣ってきたのである。
 もっとも彼、鈴木専務は黒田専務がわたしを口説き落とす為の助っ人で来ている筈なのだが、黒田専務が彩ちゃんに乗り換えたので更に気を利かせたのであろう。

「じゃ、黒田専務、すいません、また…
あ、彩ちゃんをよろしくお願いしますね…」
 わたしはそう辞した。

「みっき社長、今後もお付き合いをぜひともよろしくお願いします…
 それに彼女はお任せください…」

 そう言ってわたし達は別れ、解散をした。
 別れ際に彩ちゃんは、わたしにこっそりとVサインをしてきたのである。

 週明けの彩ちゃんレポートが愉しみだわぁ…

 わたしはそう想いながら、タクシーに乗った。

「ふう、あ、運転手さん…」
 わたしは自宅ではなく、繁華街を告げる。
 この台風停滞による、9月の雨の疼きが、わたしを自宅に向かわせるのを拒否していたのだ。

 ふうぅ…

 でもこれから彩ちゃん曰く男漁りに行く訳ではない…
 今日の夕方の彩ちゃんとの会話で、ふと想い浮かべたある男の処へ向かうのである。


ああ、でも、彩ちゃんを連れてきて本当によかったわ…

 向こうは完全にわたしに対する包囲網のつもりで鈴木専務を連れてきていたのだ。
 そして今夜の、こんな台風停滞による雨の心の不安定な疼きであったならば、黒田専務に口説き落とされていたかもしれない。

 本当に危なかった…

 だが逆に、黒田専務は今夜、彩ちゃんの手中に落ちる筈である。

 ミイラ取りがミイラになるが如しだわね…

 でもあの今夜の彩ちゃんはすごかった、アレでは落ちない男がいないのもよくわかる。
 
 さすがスーパー彩ちゃんである…

 特別ボーナスをあげなければ…

 台風停滞の影響による、9月の、もはや秋雨的な雨がシトシトと降り続いていた。
 そしてそんな雨が、巨大な低気圧が、わたしの古傷を疼かせ、自律神経を不安定に昂ぶらせてくるのであった。

 そしてタクシーは目的地の店に到着した…


 そこの入口の古びたドアに
「Bar Wooods(バーウーッズ)」
 そう書かれた渋い木製の看板が、間接照明に照らされていた。 




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