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雨の降る夜は傍にいて…
第3章 9月の雨(September Rain)
 32 マスター⑱

 それは、この前の台風第9号の余波で雨の降る真夏の夜であった。
 遥か南の海上に停滞している大型低気圧である台風が、今夜もわたしの心とカラダを疼かせていたのである。
  
 ああ、とても眠れない…

 わたしはあの豪さんの『バーウーッズ』が失くなった後にたまに通うようになっていた、ワインバーに向かっていた。
 このワインバーでは、当然のように何もある訳ではなく、ただお店の雰囲気が良いのと、ソムリエ兼任の女性スタッフの対応が気に入ったのでたまに通っていたのである。

 肝心の男漁り的な迷走は、この頃既に、理想的な男とは巡り合う希望には絶望をしており、ただ、ただ、今夜は美味しいワインを飲んで酔い痴れ、一人寝をしようと思っていたのであった。

 えっ…

 たが残念な事に、この雨のせいなのか店は休みであったのだ。

 困ったわ、どうしようか…

 この先で繁華街は終わってしまう。

 仕方ない、帰ろうか…

 わたしはそう思い、タクシーを拾おうと、繁華街の外れまで歩いていく。
 そういえば、わたしは駅とも正反対であるこの辺りまでは来た事がなかった。

 正に繁華街という迷宮の中で、迷走してるみたいだわ…

 そう思いながら大通りに向かって歩いていく。

「あっ…」

 えっ…

 まさか…

 視線の右端の古びたビルの一階の、これまた古びたドアに、薄ら明るい照明に照らされた看板が、そしてそのほのかに照らされて浮かんでいる文字が、目に入ってきたのである。

『Bar Wooods』

 その古びた看板には、そう文字が書かれていたのである…

 まさか…

 まさか、豪さんなの…

 まさか…




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