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雨の降る夜は傍にいて…
第1章 台風の夜
 13  XYZ

「じゃ、テキーラサンセットを…」
 そうバーテンに告げて、わたしはじっと彼の目を見つめる。

 すると彼の目が、ハッと見開き、輝いたのだ。

 おっ、合格か…

 わたしの投げ掛けた意味が分かっているのか…
 わたしはそんな彼の目に、ドキドキと昂ぶりを感じてきたのである。
 そして不安定な手術の傷痕もウズウズと静かに疼きを始めてきた。

 チョイスしたテキーラサンセット…

 それは、わたしを慰めて…

 というカクテル言葉の意味があるのだ。

 そしてわたしの最初の一杯目の

 ドライマティーニ…

 知的な愛…
 というカクテル言葉の意味がある。

 つまりは

 知的な愛でわたしを慰めて…

 という意味に秘められるのである。

 まさか、まさか、この意味がわかるのか…

 わたしは興奮でドキドキと昂ぶってしまう。

 当たりだ…

 久しぶりに当たりかもしれない…

 そもそもが、今まで、こんなカクテル言葉の意味の掛け合いを理解していた、いや、出来た男は過去に一人しかいなかったのである。

 もしかすると彼は二人目なのか…

 それとも適当な、たまたまの反応と応えなのだろか。

 それは次のわたしの問い掛けの応えでわかる…

「じゃあ、わたしにも貴方に一杯お返しさせて…」

 さあ、なんて応えてくるのか…

 わたしと彼の間に見えない緊張感の壁があるように感じていた。

 ドキドキ、ドキドキ…

 彼はしばしの思案の末に口を開いた。

「じ、じゃあ、XYZを…」

 
 XYZ…

 それは

 永遠にあなたのもの…

  というカクテル言葉の意味がある。

 アルファベットの最後の3文字であることから、「これ以上はない」「最後の」という意味を込めてネーミングされたカクテルなのである。
 そしてこのカクテル言葉
「永遠にあなたのもの」
 は、告白やプロポーズでよく使われるのだ。

 ああ、合格よ…





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