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雨の降る夜は傍にいて…
第4章 台風12号MUIFA(ムイファ)
 24 振り出しに戻る

 わたしの胸の騒めきは収まるどころか、更に激しく昂ぶってきていたのであった。

 ああ、10時まではもちそうにもない…

「じゃあ、ゆり、またな…」

「あっ、う、うん…」
 わたしは不意を突かれ、それしか応えられなかったのだ。
 そして彼、浩司は友人達と急ぎ二軒目の店に向かう為に、このワインバーを出て行ってしまったのである。

 あ…

 連絡先を訊かなかった…

 昔、もう完全に忘れ無くてはいけない、と、彼関係の連絡先は全て消去してしまったから何もわからない。

 もしも万が一、どうしても彼関係の連絡先を知りたいのならば、教え子である娘、美香に訊くという禁断の方法以外はないのである…

 だから何も知らないのだ。

 今さらだよね…
 と、わたしは必死に自分自身に言い聞かせる。

 たまたまなんだから…

 本当にこの9年間は全く音信も何もなく、いや、忘れていた、忘れようとしていたのである。

 そして、娘である美香絡みの事があっても、ほぼ彼の事を思い出さない境地にまでようやく来ていたのに…

 この再会で振り出しに戻ってしまったようであるのだ。

 ああ、ヤバいなぁ…

 どうしようか…

 とても10時以降までは持たない気がしていたのである。

 いいや、今夜は帰ろう…

 帰って、眠るまで自分で慰めるしかない…

 わたしはそう決意して、帰る事を決め、お会計をして店を出る。

「あっ…」

 ドキドキドキドキドキドキドキドキ…

 目の前に、彼、浩司が昔と変わらぬ笑顔で立っていたのである…

「こ、浩司…」

「ゆり…」

「なんで…」

「皆と別れて、急いで戻ってきちゃったよ…
 まだいてよかったよ…」

「そ、そんな…」
 そんな優しい言葉を掛けられてしまい、一気にわたしの心は崩壊してしまった。
 そして、目からツーっと涙を溢してしまったのである。

「なんだよ、泣くなよ…」

「だってぇ…」
 そして彼は近寄り、わたしの肩を抱く。

 ああ、浩司…

「ずうっと逢いたかったんだ…
 我慢してたんだ…」

 我慢してた…

 その言葉に、わたしの心の中で9年間築いてきていた壁が一気に、完全に崩壊したのだ。

「ああ、浩司…」
 わたしは彼を見つめる。

「ねぇ…、抱いて…」

 わたしはそう呟いたのだ…








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