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雨の降る夜は傍にいて…
第1章 台風の夜
 18 キス…

 彼は後ろから軽く抱きしめてきて、うなじ辺りに顔を寄せてくる。
 そして後ろから回してきている腕がいきなり乳房をまさぐったりはしてはこない、このゆとりある抱擁がわたしには大切なのであった。

 確かに人それぞれである、好みも人それぞれである。
 ただ、わたしはこんな、ソフトな、スローな、雰囲気を重んじる、落ち着いた、穏やかなこんな抱擁と、愛撫が好みなのであった。

「………」

 そしてなにより彼が、無言なのが良かった…
 こんなお互いが初対面で、何も知らない、分からない、そんなワンナイトな関係の始まりの瞬間から、いらぬ言葉による詮索などは要らないのである、ヘタな言葉は一瞬にして、わたしの心を醒めさせる可能性があったのだ。
 だから今の彼の無言さも、また、合格である。

 始まりには言葉は要らないのだ…

 わたしは彼に後ろから抱きしめられて心を震わせながら、ベッドルームの先にある50階の高層ホテルの窓を激しく横殴りに洗い流してきている大雨の雫の流れを見つめていた。

 そして心を震わせ、また、その大雨の要因である巨大低気圧の台風による傷痕の疼きを昂ぶらせてきていた…

 ズキズキ、ウズウズ、ドキドキ…

 彼の顔がうなじから、耳元にゆっくりと動き、そして片手で軽くわたしの顔を押さえながら、斜めに向けさせてきたのだ。
 そんな彼の仕草にわたしは目を閉じて、その気配、雰囲気、そして彼の香りを感じ取っていく。
 彼の唇が近寄ってくるのが吐息で感じてくる。
 そして唇が、スッと触れてきた。

 このキスのさりげなさ、スムーズさが、わたしには重要なのである…





 
 
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