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雨の降る夜は傍にいて…
第1章 台風の夜
 19 貴方に…

 このキスのさりげなさ、スムーズさが、わたしには重要なのである…

 どんなにここまでが合格点であろうとも、このキスの最初の流れがわたしには重要なのである。
 例えば、いきなりの強引なキスや、唇が押し付けられた途端に舌先が割り込んでくる、そんなキスはわたしの心を一瞬で興醒めさせてしまうのだ。

 だが彼の唇は、まず、軽くわたしの唇に触れ、そしてスッと離れ、また、触れてくる、そんなキスの仕方をしてきたのである。
 そんな唇の微妙な動きにわたしは昂ぶり、逆にこちらから彼の唇を求めてしまう、その微妙なフレンチな、ソフトタッチのキスなのであった。

「あっ…」
 わたしは思わず吐息を漏らし、自らの唇を軽く開いてしまう、するとその瞬間を逃すまいと彼の舌先がスッと、本当に自然に、スムーズにわたしの中に入ってきたのである。

 ああ…
 そのスムーズな彼の舌先の感触に、心が震えてしまう。

 合格よ…

 いいわ、合格よ…

 後はもう、貴方にお任せする…
 わたしはそんな意味、想いを込めて、唇を吸われながら、彼にカラダを預けていく。

 もう貴方の好きなように抱いて欲しい…

 そして傷痕の疼きを鎮めて欲しい…

 わたしと彼はキスをしながらベッドへと倒れ込む。

 ベッド脇の50階の高層の窓には激しい嵐の大雨が、音もなく、静かに、激しく打ち付け、窓を洗い流していた…




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