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雨の降る夜は傍にいて…
第5章 秋冷え…
 18 心の動揺

 浩司の奥様と娘って…

 なんて運命の悪戯なんだ…

 こんな事ってあるんだ…

 不思議な想いが湧き起こってきていたのである。
 そして、激しく心が動揺してしまう。
 だが、わたしはその心の動揺を悟られまいと必死に隠す。


「美紀谷先生、ぜひ、これを機会に今後とも美香の事をよろしくお願いしますね…」
 こんなわたしの動揺等には全く気付かない、いや、想像も出来る筈もないのであるが、奥様はそう挨拶をしてきていた。

「あ、は、はい、こちらこそぜひ…」
 こう返すのが精一杯であったのだ。

「ゆっくりしていって下さいね」
 そう奥様は最後に言って、わたし達から離れていった。

 ドキドキドキドキ…

 ザワザワザワザワ…

 激しい動揺と、心の騒めきが激しく高鳴っていた。

 なんて出会いなんだ…

 こんな事があるんだろうか…

「これ、奥様からのサービスです」
 と、店長がオードブルの盛り合わせを運んでくる。

「あ、すいません…
 そうだ、店長、奥様はよくこのお店に見えるの…」
 と、訊く。

「うーん、どうかなぁ、本当にたまにしか来ませんねぇ…
 ああやってお友達と本当にたまあにですねぇ…」
 店長は、わたしとオーナーである大塚浩司との関係は薄々知っている感じではあった、だが、このステーキハウスを任されている店長は聡明な方で、余計な話しは一切してはこない。
 
「本当にたまあにですねぇ…」
 滅多に来ないのに、遭遇しちゃってお気の毒に…
 店長はそんな目をしながら、もう一度そう言葉を繰り返したのである。

 すっかりわたしは動揺してしまい、食欲を無くしてしまう。
 この時点のわたしには、こんな不倫のハプニング等を軽くかわせる程の心の図太さは、まだ持ってはいなかったのである。

 せっかく『不倫』という、心のやましさ、後ろめたさが無くなりつつあったのに…

 この遭遇により、奥様と娘という存在感を嫌という程に意識をするようになってしまうのである。

 そして、罪悪感も…




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